体に良いイメージのある食物繊維、十分に摂れていますか?
厚生労働省の「平成28年国民栄養・健康調査」では、すべての年代で食物繊維が不足していた、というデータがあります。(注:平均摂取量)
必要だということは認識されつつも、十分に摂れている人は少ないようです。
この記事では、食物繊維の基本的な働きから「摂取すると健康にどんな効果があるのか「どのくらいの量を摂取するのが良いのか」をお伝えします。
第6の栄養素 食物繊維とは
人間が生きていく上で必要な栄養素を5大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)と呼びますが、近年それらに次ぐ第6の栄養素と呼ばれるのが「食物繊維」です。
エネルギーとしては利用されないため、昔は重要視されていませんでしたが、近年の研究から様々な健康効果が発見され、食物繊維は健康な体を維持するために不可欠であることがわかってきました。
一般的に食物繊維は「人間の消化酵素で消化できない食品成分の総称」と定義されています。
野菜に多いイメージがあるかと思いますが、穀物、果物や海藻、キノコ類、など種類は様々です。
食物繊維には種類がある
食物繊維には多くの種類がありますが、「水に溶けやすいか、溶けにくいか」で水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に分けられます。
・水溶性食物繊維
水に溶けやすい性質を持ち、大麦などの穀物、ごぼうやオクラ、果物や海藻類などに多く含まれています。
水溶性食物繊維には、果物に多いペクチンや海藻類に多いアルギン酸、フコイダン、寒天の主成分であるアガロースなどがあります。
食品素材としてよく利用される、イヌリンや難消化性デキストリンも水溶性食物繊維に分類されます。
・不溶性食物繊維
水に溶けにくい性質を持ち、根菜類やキノコ類、繊維のかたい野菜(ごぼう、たけのこなど)、豆類に多く含まれています。
不溶性食物繊維には、野菜や穀類の外皮など植物を構成するセルロース、ヘミセルロース、リグニンの他、エビやカニ類の外骨格成分であるキチン、キトサンも不溶性食物繊維に分類されます。
食品としてみた場合には、どちらかだけが含まれているということは珍しく、両方含まれているけれどもどちらかが多い、という場合がほとんどです。
水溶性と不溶性は両方重要!食物繊維の働き
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維、どちらも食べ物の噛む回数を増やしたり、消化液の分泌をサポートしたりする働きがありますが、性質が異なります。
・水溶性食物繊維
- 糖の消化・吸収を緩やかにする
- 腸内細菌のエサとなり短鎖脂肪酸を産生し、お腹の調子を整える
- 胆汁酸の再吸収を抑えてコレステロールのバランスを整える
- 水分を吸収してゲル化するため、胃や腸の粘膜を保護し、空腹感を和らげる
・不溶性食物繊維
- 水を含む力が強く、便の量を増やし腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)を促進する
- 吸着・排出作用がある
食物繊維を摂るメリット
お腹の調子を良くするイメージのある食物繊維ですが、それだけではありません。
お腹の調子を整えることだけではなく、全身に良い影響をもたらすことがわかってきています。
食物繊維を摂って腸内環境を整えることは、健康の重要なカギとなっています。
腸の健康をサポート
食物繊維を摂ることで、腸の健康をサポートしてくれます。
不溶性の食物繊維、水溶性の食物繊維共に働きは異なりますが、どちらも腸内環境を整える働きがあります。
腸内環境を良好に保つことで腸の中の善玉菌が増え、排便コントロールを良好にするだけでなく、次のような健康効果が期待できます。
血糖値の急激な上昇を緩和
食べ物を食べると、血糖値が上昇します。血糖値が上がること自体は自然な反応ですが、急激に上がったり、高い状態が続いたりすると良くありません。
食事の中で食物繊維が多い食品を摂ると、消化・吸収がゆっくりとなるため血糖値が急激に上がるのを防いでくれます。
また、食物繊維を含む食品は、量があってもエネルギーは少ないものが多いため、少ない量で満足しやすいという特徴があります。
免疫システムをサポート
食物繊維を摂取して腸内環境を整えることは、免疫にも良いことが知られています。
腸は体の中にありますが、外からくる病原体と常に接しています。そのため腸には免疫細胞の半分以上が存在すると言われ、体を守る役割を担っているのです。
食物繊維は排便コントロールをサポートしたり、腸内細菌のエサとなったりして腸内環境を良好に保つことで、免疫システムをサポートしています。
食物繊維の摂取量の目安
食物繊維の摂取不足と様々な病気に関連があるということから、目標とする摂取量が決められています。
厚生労働省より5年ごとに出される「日本人の食事摂取基準2020」を参考に目標量をご紹介します。
年齢別の目標量
食物繊維の1日の摂取目標量は年齢、性別によって異なります。
食物繊維の食事摂取基準(g/日)
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
年齢等 | 目標量 | |
18~29歳 | 21以上 | 18以上 |
30~49歳 | 21以上 | 18以上 |
50~64歳 | 21以上 | 18以上 |
65~74歳 | 20以上 | 17以上 |
75歳以上 | 20以上 | 17以上 |
妊婦・授乳婦 | ‐ | 18以上 |
※日本人の食事摂取基準2020より抜粋
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020 年版)1―4 炭水化物」
海外の研究から考えられる食物繊維の理想的な目標量は、成人で24g/日以上とも言われています。現代の日本人の食生活からみると実現が難しいことから、最低ラインで設定された目標量ですので、少なくとも表の量は摂れるように頑張りましょう。
平成30年「国民健康・栄養調査」の調査結果では、20歳以上の日本人は平均で15g程度しか食物繊維を摂取できていません。
まずは1日プラス3~6gを目標に、積極的に摂っていきましょう。
出典:厚生労働省「平成30年 国民健康・栄養調査」
子供は3歳頃から意識して摂取
食事摂取基準では、3歳から目標量が掲載されています。
子供の場合は特に、個人差が大きく数字には出しにくいとされていましたが、子供の頃の食習慣は大人になってからの食習慣に影響を与えることを考慮し、設定されました。
食物繊維の食事摂取基準(g/日)
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
年齢等 | 目標量 | |
3~5歳 | 8以上 | 8以上 |
6~7歳 | 10以上 | 10以上 |
8~9歳 | 11以上 | 11以上 |
10~11歳 | 13以上 | 13以上 |
12~14歳 | 17以上 | 17以上 |
15~17歳 | 19以上 | 18以上 |
※日本人の食事摂取基準2020より抜粋
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020 年版)1―4 炭水化物」
全国調査(平成28年国民健康・栄養調査)において3~5歳の子供の摂取量の中央値は8.7g/日(男児)、8.5g/日(女児)と報告されています。
十分に食物繊維を摂れている子供も多くいますが、子供の場合は特に好き嫌いが原因で摂取量に差が出やすくなります。
野菜嫌いの子供でも、調理方法を工夫するなどで意識して食物繊維を摂れるように配慮したいですね。
生活習慣病が気になる方は積極的に摂取
年齢別の目標量とは別に、摂っている食事量が多ければその必要量も増えていきます。
海外の基準を参考にすると1,000kcal当たり14gの食物繊維を摂るのが望ましいとされています。
食事量が多い方、糖質や脂質の摂取の多い方はより積極的に食物繊維を摂った方が良いかもしれません。
最近では、科学的に体にうれしい働きが確認されている食品として、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品が市販されることも多くなってきました。なかなか日常の食事からだけでは摂りにくいという方は、トクホや機能性表示食品をうまく利用してみるのも1つの方法です。
※注意
健康な方を対象にしたものであり、病気の治療や予防を目的としたものではありません。また、大量に摂ることで病気の治癒や、さらに健康が増進するものではありません。
食物繊維の正しい摂り方
食物繊維が体に良い影響をもたらすからと言って、ただ摂ればいいということではありません。正しい方法を知って、より効率的に摂取しましょう。
摂取量を知る
成人(18歳~64歳)で1日に男性21g以上、女性18g以上の食物繊維を摂取することが推奨されています。
現代の日本人では足りていない人の方が多いため、サプリメント等で摂る場合を除いては過剰になることは少ないと考えられます。
サプリメント等で極端に多く摂り過ぎた場合、一部の不溶性食物繊維はミネラルなどの吸収を妨げることもあるので気をつけましょう。
また、少ない量でも、食物繊維によるお腹の負担を感じる人もいます。体調や自分のお腹の状態に合わせて摂取量を調整し、無理のない範囲で摂取するようにしましょう。
(大腸通過遅延型便秘症や便排出障害といった診断を受けた方は、食物繊維を多く摂ると悪化することがあります)
普段からお腹が弱いという方は特に、お腹に負担をかけないように食物繊維摂取量を徐々に増やしていくのが理想です。
種類をバランス良く摂る
野菜や果物、穀物、豆類など、様々な食品から食物繊維をバランス良く摂取することが大切です。食物繊維が体に良いからと言って、多くの量を食べ続けるのはよくありません。
すべての栄養素に言えることですが、同じ食品ばかり食べると摂れる栄養が偏ってきます。食物繊維の他にも摂りたい栄養素がたくさんありますので、1日に摂取する食品の種類を豊富にし、色彩の異なる食品を摂取するように心掛けましょう。
食べ方を工夫する
食物繊維は低エネルギーでありながら、「かさ」があることから、生の状態で量をたくさん食べようとすると食べにくかったり、十分な量を摂れなかったりすることがあります。
加熱調理や煮込み料理を選ぶとより多く摂取できますので、サラダだけではなく、煮物や茹でる、蒸すなどの調理法をうまく取り入れましょう。毎日食べる主食のごはんを玄米や大麦などの茶色い穀物に変えることもおすすめです。
また、よく噛んでゆっくりと食べることで、食物繊維の吸収効率を高めることができます。
ベジファースト(食物繊維の豊富な野菜を先に食べる)という言葉があるように、食事の最後に食物繊維を摂るよりも、最初に摂った方がよりメリットを得やすいと言われています。
水分と一緒に摂る
食物繊維を摂取する際には、水分をしっかりとることが重要です。水分を摂取することで、お通じがよくなり、腸内環境を整える効果が期待できます。
さらに不溶性食物繊維を一緒に摂取することで、食物繊維が水分を含んで腸内で膨張して便のかさが増え、より便通が促進されます。
まとめ|食物繊維を理解して健康に役立てよう
食物繊維は第6の栄養素と呼ばれ、健康な生活を送る上で欠かせません。
大きく分けると水に溶けやすい水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維に分けられ、それぞれ異なる働きをします。
食物繊維を摂るメリットはたくさんありますが、主に「腸の健康をサポート」「血糖値の急な上昇を緩やかにする」「免疫システムをサポートする」などが挙げられます。
足りていない人が多いと言われている食物繊維は、1日の摂取目標量があり、成人で男性21g以上、女性18g以上です。
子供の頃の食習慣は成人してからの食習慣に影響があることも考慮して、3歳頃からは不足のないように摂取するのが推奨されています。
食物繊維について正しく知り、毎日の食習慣に取り入れてみてください。
福井 美典 /医師(糖尿病専門医・抗加齢医学専門医・救急科専門医・総合内科専門医・栄養療法医・美容皮膚科医)
糖尿病内科・栄養療法・美容皮膚科に従事。
分子栄養学に基づき、不足栄養素を補うことで、 からだの細胞を活性化させる栄養療法を取り入れている。 糖尿病診療においては、からだにやさしい血糖値コントロールを基本に、低糖質・高たんぱく質の食事の大切さを、臨床で自ら栄養指導をしている。 美容皮膚科診療においては、美容施術のみならず、栄養療法を基本としたインナーケアにも尽力している。 公式instagram:https://www.instagram.com/fukuinaika.biyou.eiyou/ 公式HP:https://www.seijinkai-clinic.com/ |
・栄養素等の目安量等_日本人の食事摂取基準(2020年版)より抜粋 (令和5年4月30日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586559.pdf
・食物繊維 | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp) (令和5年4月30日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-016.html
・食物繊維の必要性と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年4月30日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
・腸内細菌と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年4月30日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html
・便秘と食習慣 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年4月30日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-010.html
・野菜、食べていますか? | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp) (令和5年4月30日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-03-015.html