「イヌリン」を知っていますか?
近年ではその健康効果が注目を集めており、摂取したことがある方もいるかもしれません。
しかし、一口にイヌリンといっても、製造方法や原料はさまざまであり、製品によって異なります。
また、口に入れるものですので「何から作られているの?」「安全性はどうなの?」など気になることもたくさんありますよね。
この記事では、イヌリンの製造方法や原料の違いについて詳しく解説します。
イヌリンを食事に取り入れてみたいけど、選び方がわからないという方にもぴったりの内容ですので、ぜひイヌリンを選ぶ際の参考にしてください。
イヌリンとは
イヌリンとは、チコリの根や菊芋、ごぼう等に多く含まれている水溶性食物繊維の一種です。
ブドウ糖1つに果糖が1つくっついたものが砂糖。定義はいくつかありますが、一般的にはイヌリンはブドウ糖に果糖が2つ以上直線上につながった構造をしており、一部、果糖だけがつながった構造のものもあります。同様に果糖がつながった構造で分岐のあるタイプや違うつながり方のものもあります。
砂糖はヒトの消化酵素で分解することができますが、イヌリンはヒトの消化酵素では分解されず胃や小腸を通り、大腸まで届くことが知られており、食物繊維として分類されています。
イヌリンは腸内環境を整える、善玉菌を増やす、体に有用な作用をする短鎖脂肪酸を産生するなど、さまざまな健康効果が確認されており、世界的に注目されている成分です。
ごぼうや玉ねぎ、にんにく、バナナなどにも含まれているため、日本はもちろん世界中で人類が知らず知らずの間に摂取してきた食品成分であり、食経験の長さからも安全性が高いといえます。
イヌリンは水溶性食物繊維の一種
食物繊維は「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義されています。
私達が食べたものは主に胃や腸で消化・吸収され、血液を介して全身に運ばれて行きますが、食物繊維は消化されず腸まで届き、さまざまな嬉しい効果を発揮します。
食物繊維は水に溶けやすい水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維に大きく分類されます。
水溶性・不溶性どちらも健康に有益な働きをしますが、水溶性食物繊維の多くは腸内細菌に利用され、善玉菌を増やす働きがあります。
世界で取扱量の最も多い水溶性食物繊維はイヌリンで、海外では最もポピュラーな水溶性食物繊維といえるでしょう。
水溶性食物繊維はイヌリンのほかに、β-グルカンやペクチンなど多くの種類がありますが、その中でもイヌリンは大腸内での発酵力に優れているという論文データもあり、世界中で注目されています。
脂肪オフ、糖質オフ、カロリーオフなどを目的に、パン・焼き菓子、乳製品、飲料など幅広い商品に採用されており、今後もさらなる用途の拡大が期待されています。
イヌリンの効果
イヌリンの健康効果は多岐にわたります。
- 整腸作用
イヌリンは、腸内で善玉菌に利用され、腸内で善玉菌を増やし、短鎖脂肪酸を産生することが知られています。
ちなみに水溶性食物繊維にはたくさんの種類がありますが、すべてが善玉菌に利用されるわけではありません。
- 血糖が急激に上がるのを防ぐ
食事の中で水溶性食物繊維を多く含む食品を摂ると、消化・吸収がゆっくりとなるため血糖値が急激に上がるのを防いでくれます。またイヌリンの場合、腸内で短鎖脂肪酸を産生することで食後の血糖値の上昇を緩やかにすることも知られています。
血糖値の急上昇は、血管を傷つけたり、糖尿病の原因になったりと健康にさまざまな悪影響をおよぼします。
食物繊維の中でも、水溶性食物繊維はその効果が高いといわれていますので、血糖値が気になる方は、イヌリンを食してみてはいかがでしょうか。
- 脂質の吸収を抑える
食物繊維の中でも主に水溶性食物繊維は、水に溶けると粘度のある液体となり、食べ物が移動するスピードを緩やかにする働きがあります。
摂取した食物繊維が腸の中を移動する時に、コレステロールやコレステロールから作られる胆汁酸を排泄するのを促進し、良好なバランスを保ちます。
コレステロールは細胞膜をはじめ、ホルモンや胆汁酸の材料となり、体には必要なものですが、バランスが崩れると動脈硬化の原因になる可能性があり注意が必要です。
イヌリンの製造方法
イヌリンの製法は大きく分けて2つあります。
一つは「植物から抽出する方法」、もう一つは「人工的に合成する方法」です。
植物から抽出
イヌリンは菊芋、チコリの根、ごぼう、玉ねぎなどの植物に含まれています。
植物由来のイヌリンは、菊芋やチコリなどイヌリンを高濃度に含む植物を原料にイヌリンを抽出、精製する方法です。
甜菜(ビート)から作られる砂糖とチコリ由来のイヌリンには共通点があり、同じような製造方法で作られているそうです。
甜菜もチコリの根もそのまま食べられることはないですが、生のまま食べてみると甜菜はアクが強く、そのままでは食べられないそうです。
一方のチコリも別名「菊苦菜」といわれる通り、そのままでは苦くて食べられません。
甜菜から抽出・精製して得られる砂糖に苦味がないのと同様、チコリから抽出・精製して得られるイヌリンにも苦味はなく、ほんのり甘い白い粉末です。
チコリから抽出されて作られるイヌリンには苦味はないので安心してください。
人工的に合成
人工的に合成されるイヌリンは、砂糖を原料に酵素反応で合成されて作られます。
イヌリン合成酵素により砂糖に果糖を付加するという方法で、野菜や穀物を原料にした場合よりも、原料の個体差が少なく安定した供給が見込まれます。
イヌリンの原料・菊芋
イヌリンを含む野菜として代表的なのが菊芋です。
スーパーに一般的に並ぶものではないため、見たことがない方もいるかもしれせんね。
一見すると生姜のような見た目です。
繁殖力が強いため、作物として作られているほか、畑のすみや道路など、自然に群生していることもあるようです。
菊芋ってどんな食材?
菊芋はキク科の植物で、地中に大きな芋をつけることから菊芋と名付けられました。
原産はアメリカ北部とされており、アメリカでは原住民であるアメリカインディアンの方々が食用にしていたものが、1600年代にヨーロッパに渡り普及したようです。
日本には江戸時代に持ち込まれたようですが、当時は食用としてはあまり好まれず、家畜の飼料用として利用されていました。
菊芋が広く食べられるようになったのは、第二次大戦直後のことです。
栽培が容易で、当時は作付け統制野菜として栽培され、食糧難を救う貴重な存在でした。
食糧が豊富になっていくうちに使われなくなり、スーパーなどから姿を消してしまい、今では一部の地域をのぞいて一般的な野菜ではなくなっています。
現在ではその健康効果が知られ、健康食品や飲料の原料として利用されることが増え、各地で栽培が盛んになってきています。
生のままではシャキシャキ、火を通すとホクホクした食感が特徴で、漬物やサラダ、炒め物、煮物、天ぷらなど、幅広い料理に使われています。
菊芋には生姜によく似た白色種と、赤みがかった紫色種の2種類がありますが、どちらも丸みがあり、しっかりと身が固く締まったものが良いとされています。
菊芋の効能
芋という名がついていますが、じゃがいもやさつまいもなどのように糖質が多い野菜ではなく、でんぷん質をほとんど含みません。
そのため、その他の芋類と比べると糖質量が少なく、カロリーも低いという特徴があります。
カロリーを気にせず摂取することができるため、ダイエットの強い味方ですね。
また、菊芋には「カリウム」が多く含まれています。カリウムはミネラルの一種で、人間には欠かせない栄養素の一つです。
カリウムには塩分を排出する作用があるため、塩分の摂りすぎから起こる血圧上昇を防ぐ効果があります。
また、むくみ解消や、筋肉の痙攣の予防なども期待できます。
イヌリンの原料・チコリ
イヌリンを含む野菜として、菊芋と並んで含有率が多いのがチコリです。
チコリを一度畑で育て、緑の葉を切り落とし、根を暗所で育てることで白~薄い黄緑色の葉をつけます。欧米ではこの白っぽい葉を葉野菜として家庭料理でも使われます。
オードブルやサラダなどに使われ、白く舟形の葉っぱは、一度は見たことがあるのではないでしょうか。
この白っぽい葉にはイヌリンはほとんど含まれません。イヌリンが多く含有しているのはそのチコリの根の部分です。
チコリってどんな食材?
チコリは、レタスなどと同じキク科の野菜です。
チコリは葉の部分と根の部分で、使われ方や入っている栄養成分が異なります。
暗所で栽培されたチコリの葉の部分は、チーズやハム、サーモンなどを乗せて、サラダとして生のまま食べたり、グラタン・スープ・煮込み料理等に加えたりして食卓を鮮やかに彩ります。
ほんのりとした苦味と食感を楽しむチコリですが、チコリを生で使う時には、1枚ずつはがして水にさらすとしゃきっとして器にもなり、見た目も華やかになります。
火を通す料理に使用すれば、苦味は少なくなり食べやすくなります。
チコリの根はイヌリンを豊富に含み、根をスライス、乾燥し、焙煎してお湯で煮出したものはチコリコーヒーとして飲まれます。
チコリコーヒーは、ドイツ連邦は「三十年戦争」の頃、コーヒー禁止令が出されたことで代用コーヒーとしての飲用が始まり、その後もヨーロッパで第二次大戦時にコーヒー豆が生産地から輸入できなかった際にも、代用コーヒーとして広く飲まれました。
現在では、ノンカフェインで健康にも良いことから、ドイツ・フランス・アメリカなどの欧米を中心に愛飲されています。
焙煎度にもよりますが、このチコリコーヒーにもイヌリンが含まれていることがわかっており、食物繊維を気軽に摂取できる飲み物としてもおすすめです。
チコリの歴史
古代ギリシャでも、イヌリンを多く含む野菜としてチコリの健康効果が書かれている記録が見つかっていたり、紀元前4世紀のエジプトで記された医薬書「エーベル・パピルス」によると”魔力を持ったハーブ”と表現されていたりと、かなり昔から使われていたという記録があります。
その後も19世紀にはチコリ由来イヌリンに関する文献が存在するなど、長い間世界各国で継続的に食されてきました。それだけ安全性も高い食品といえます。
チコリの原産はヨーロッパや北アフリカで、日本には明治時代初期に伝えられたといわれています。
ベルギーやフランスでは、古くから食用として利用されていましたが、独特な苦味があるため、日本に渡ってきてからもすぐには利用されなかったようですが、最近では、暗所で栽培された葉っぱが食材として一般的に利用されるようになっています。
チコリの効能
人がチコリを食してきた歴史はとても古く、多くの国々で食品・薬として親しまれてきました。
独特なほろ苦さが特徴のチコリですが、この苦味は胃腸などの消化器官を活性化させるといわれる、タラキサステロールやポリフェノールの一種であるラクチュコピクリンという成分によるものだそうです。
チコリの花
チコリは青紫色で直径2~4㎝程度のとても可愛らしい花が咲きます。
ごぼうのような根やその苦味からは、想像できないような姿で、食べられる花(エディブルフラワー)としても活用されています。
これまでにケーキやサラダなどに飾られているのを、チコリの花と知らずに食べたことがあるかもしれませんね。
チコリは葉や根だけでなく、花までも食べられるとても優秀な食材です。
イヌリンの食べ方
イヌリンについて、原料や製法について詳しくわかったところで、最後は食べ方です。
イヌリンは抽出されたのち、粉末に加工されることが多いですが、水に溶かすことができるうえに熱にも強いため、さまざまな料理に加えて摂取することができます。
飲み物やお菓子類はもちろん、味はやさしい甘みのみのため、ご飯を炊く時に一緒に入れたり、ハンバーグや餃子などに混ぜ込んだりすることも可能です。
さらに、イヌリンは普段の食事をより美味しく、食べやすくしてくれる効果がありますのでここでは3つのおすすめの摂り方をご紹介します。
自然な甘みで砂糖の代わりに
イヌリンは砂糖に似たやさしい甘みがあります。
砂糖は1gあたり4kcalあるのに対して、イヌリンは1gあたり2kcal程度。
甘みは砂糖の1割程度ですから、砂糖を全て置き換えると甘みが足りないように感じるかもしれませんが、砂糖の一部(3割程度)をイヌリンに置き換えて使えば、甘さが少なすぎると感じにくいうえ、食物繊維を摂取できるので、ダイエット中の方にもおすすめです。
飲みにくさを解消!マスキング効果
イヌリンは、苦味や渋みなどの嫌な味をうまく包み込み、カモフラージュする効果があります。
例えば、健康的な飲み物で人気の青汁。
青菜の独特な味が、より効きそう~と思えるものの、やはり飲みやすい方が良いですよね。
そんな時にイヌリンを加えることでより飲みやすくなります。
サプリメントの中には、はじめからイヌリンを加えてあるものもあるので、注意してパッケージを見てみてください。
脂肪のような口当たりで美味しさをプラス
イヌリンは、高濃度で水に溶かして冷やすとなめらかな食感のペーストに変化します。
この性質を活かしてクリームやアイスなどに使用すると、脂肪分を抑えつつ濃厚な味わいのスイーツを作ることができます。
脂肪がたくさん使われた食品は美味しいですが、脂肪は1gあたり9kcalとカロリーが気になることもあるかもしれません。
イヌリンを使って脂肪のような口当たりをプラスすることで、美味しく、ヘルシーで食物繊維も摂れるため嬉しいこと尽くしです。
まとめ
イヌリンとは、自然界では、チコリの根や菊芋、ごぼう等に多く含まれている水溶性食物繊維の一種で、昔から健康効果を期待して使用されることもあった食品成分です。
砂糖と似たほんのりした甘みを持ちますが、砂糖がブドウ糖1つに果糖が1つくっついたものであるのに対して、イヌリンはブドウ糖に果糖が2つ以上つながった構造をしています。
砂糖はヒトの消化酵素で分解することができますが、イヌリンはヒトの消化酵素では分解することができないため腸まで届き腸内細菌をサポートします。また、食物繊維として分類されています。
イヌリンの製法は大きく分けて2つあり、一つは「植物から抽出する方法」、もう一つは「人工的に合成する方法」です。
植物から抽出される方法では、原料に菊芋やチコリの根を使うことが多く、人工的に合成する方法では、砂糖に酵素を使って分解して作られます。
菊芋、チコリ共に外国から渡ってきた野菜ですが、イヌリンを多く含むことでその健康効果が見直され、特に菊芋は日本でも多く食べられています。チコリを暗所栽培した葉にはイヌリンはあまり含まれません。
イヌリンの健康効果は、整腸作用をはじめ、食後の血糖値の急な上昇を緩やかにする、、脂質の吸収を抑えるなど多岐にわたります。
また、イヌリンは食品加工の面でも注目されており、特に砂糖や脂肪の代替になることから使い方次第ではダイエットにも向いている嬉しい成分です。
イヌリンは、日本ではまだなじみのない食品成分ですが、玉ねぎやごぼう、にんにくなどを通して私達が長い人類の歴史を通して食べてきた成分であり、食経験の長さからもかなり安全性が高いといえるでしょう。
福井 美典 /医師(糖尿病専門医・抗加齢医学専門医・救急科専門医・総合内科専門医・栄養療法医・美容皮膚科医)
糖尿病内科・栄養療法・美容皮膚科に従事。
分子栄養学に基づき、不足栄養素を補うことで、 からだの細胞を活性化させる栄養療法を取り入れている。 糖尿病診療においては、からだにやさしい血糖値コントロールを基本に、低糖質・高たんぱく質の食事の大切さを、臨床で自ら栄養指導をしている。 美容皮膚科診療においては、美容施術のみならず、栄養療法を基本としたインナーケアにも尽力している。 公式instagram:https://www.instagram.com/fukuinaika.biyou.eiyou/ 公式HP:https://www.seijinkai-clinic.com/ |
・食物繊維 | e-ヘルスネット 厚生労働省(令和5年10月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-016.html
・食物繊維の必要性と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年10月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
・一般社団法人日本食物繊維学会 ルミナコイド素材エネルギー評価(2013)http://jdf.umin.ne.jp/kakusyu/2020-1.pdf
・ルミナコイド素材のエネルギー評価の考え方とメチルセルロース、イヌリン、還元難消化性デキストリンならびに高架橋澱粉のエネルギー評価結果http://jdf.umin.ne.jp/pdf/H24luminacoid.pdf