腸を整えることで全身にさまざまな良い効果をもたらす「腸活」。
腸活には生活習慣の改善や運動などいろいろな方法がありますが、まずは食事の改善から始めることをおすすめします。
腸内環境は、日々食べたもので変化しているため、食事を意識することがもっとも効果を得やすいからです。
この記事では、腸活とはそもそも何か、腸活で得られる効果、何から取り組み始めるとよいかなど、腸活初心者の方向けに腸活の基本を詳しくお伝えします。
具体的な食材選びについても解説しますので、これから腸活を始めたい方や、腸活についてもっと深く知りたい方はぜひ参考にしてください。
腸活とは
「腸活」「菌活」などさまざまな言葉がありますが、なんとなくは分かるけれど説明できない、という方も多いのではないでしょうか。
腸活は大人が取り組むもの、と思われがちですが、子どもから大人まですべての人に役立ちます。
腸活とは腸内環境を整えること
「腸活」とは、腸内環境を整えること、そのための取り組みすべてを指します。
腸に限らず、菌に対する取り組みを「菌活」といいますが、「腸活」と同じ意味で使われることも多いです。
腸内環境は腸内に生息する腸内細菌の数や種類、働きによって状態が変わります。
腸活では、食生活や生活習慣の改善、運動などを行い、人に良い影響を与える菌(=善玉菌)を増やして腸内環境を良好に保てるように働きかけます。
腸活に欠かせない腸内細菌
腸内環境を整えるために、腸内細菌の特徴を知っておきましょう。
腸の中で宿主である人に有益な働きをする腸内細菌を「善玉菌」、悪い影響を及ぼす腸内細菌を「悪玉菌」と呼びます。
善玉菌は乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌、糖化菌などに代表され、それらの菌が影響し合って活動しています。
また善玉菌は腸内を弱酸性に保ち、酸性環境に弱い悪玉菌の増殖を抑えたり、健康維持に大切な短鎖脂肪酸を産生したり、人に良い影響をもたらします。
一方で悪玉菌は大腸菌(有毒株)、ウェルシュ菌、ブドウ球菌などに代表され、毒性物質を産生し、便秘や下痢、肌荒れ、免疫力の低下など、人に悪い影響をもたらします。
どちらにも属さないものを日和見菌と呼びますが、日和見菌は善玉菌、悪玉菌の優勢な方の味方につき働きを変える性質があるため、常に善玉菌が優勢な状態にしておくことが大切です。
理想的な割合は善玉菌2:日和見菌7:悪玉菌1だといわれています。
腸内フローラ
人の消化管には1000種類、100兆個に及ぶ腸内細菌が生息しています。
この腸内細菌は不規則に存在しているのではなく、同じ菌株でテリトリーを作って生息しており、その様子がお花畑のように見えることから「腸内フローラ」と呼ばれています。
腸内フローラは誕生直後は受け継がれた菌叢ですが、基本的に後天的に獲得していくものです。
無菌状態である胎児が初めて腸内細菌と出会うのは、出産で産道を通るときです。その後も育った場所や環境に影響を受けながら、3歳くらいまでの間に菌が定着していきます。
腸活のメリット・効果
腸活というと、便秘解消や排便コントロールをイメージする方が多いですが、腸活のメリットはそれだけではありません。
腸は全身の健康に影響を及ぼしているのです。
便通改善
腸内環境を整えると、排便コントロールが良好になり、便秘や下痢などを起こしにくくなります。
便秘とは、便が大腸に停滞したり、十分な量の便が出なかったりする状態をいいますが、便秘の状態では悪玉菌が増え、さらに腸内環境が悪化する原因になるのです。
また便秘で悪玉菌が増えることにより腸内環境が乱れると、栄養の吸収が妨げられ、脂質や老廃物をため込みやすくなるといわれています。
免疫ケア
腸は免疫と深い関係にあります。
口から入ってくるのは飲食物だけではありません。病原菌など危険なものも一緒に入ってきます。そのため、腸には外敵から身を守る役目もあり、腸管には体の免疫細胞の半分以上が存在しているといわれています。
腸内環境が良いと、免疫細胞が活性化され、病原体に対する反応も向上するのです。
肌荒れの緩和
腸内環境が整っていると、必要な栄養を効率よく吸収し、不要なものをスムーズに排泄できるため、体が整い肌荒れなどのトラブルを起こしにくくなります。
腸のトラブルの代表である便秘や下痢は、腸内環境が悪化して起こる初期症状です。
便秘や下痢の症状があると、さらに悪玉菌が活発に働きやすくなり、アンモニアやアミンなどの体に有害な物質が発生します。
この有害な物質が腸の粘膜を通して全身にまわり、肌荒れなどのトラブルにつながるといわれているため、腸活は美容にも深く関わっているのです。
肥満の予防
大腸内で特定の腸内細菌が食物繊維を分解、発酵して産生する短鎖脂肪酸は、肥満を予防するといわれています。
腸活で腸内細菌の働きを活性化すると、この短鎖脂肪酸が作られる量が多くなるのです。
また、腸活に良いとされる食物繊維を含む食品は低カロリーでかさ増し効果があり、食べ過ぎ予防になります。
腸活は何から始める?
腸活を始めるときにはまず、食生活の改善から取り組むのが効果を得やすいとお伝えしてきました。
ここでは、食生活の改善とともに取り組みやすいものをご紹介します。
食生活
腸内環境は、私たちが日々食べたもので変化しているため、食生活を整えることはとても大切です。
バランスの良い食事とは、主食(ご飯、パン、麺など)と主菜(魚、肉、卵、豆腐など)、副菜(野菜、きのこ、海藻など)が1食の食事の中にそろっているものを指します。
悪玉菌は、たんぱく質や脂質が中心の食事が原因で増えやすいため、主食を抜くなど炭水化物を過度に制限するのはおすすめできません。
腸内環境を整える食事で特に意識したいのは、食物繊維や発酵食品の摂取です。
具体的な食品については後半で詳しく説明します。
適度な運動
自律神経は腸の蠕動運動に関わっており、適度な運動は自律神経を整えます。
私たちが食べたものは、この腸の蠕動運動によって腸の奥へと運ばれていきます。その過程で栄養分、水分は体内に吸収され、余分なものが便となり排出されるため、スムーズに便を出すためには腸がしっかりと動いていることが大切です。
適度な運動とは、ウォーキングなど息がはずみ、汗をかく程度の運動のことです。強度が高めの運動を無理して行うと、ストレスでかえって自律神経が乱れてしまうことがあるため注意しましょう。
また、便を体内から押し出すために必要な腸腰筋は、おなかをひねったり伸ばしたりすることで鍛えられるため、便秘予防のために併せて行いたい運動です。
マッサージ
腸の動きが悪いと便が停滞しやすくなるため、マッサージで体の外から腸を直接刺激し、腸を動きやすくすることも有効です。
またマッサージをすることで心身をリラックスさせ、副交感神経が優位な状態をつくることは、便秘解消につながります。
具体的な方法は以下の通りです。
・手のひらを使って、大腸の形にそって時計回りに「の」の字を書くようにマッサージする
・大きくゆっくりと30回ほど繰り返す
腸のマッサージは、入浴時や入浴後の体が温まっているときに行うのがおすすめです。
生活習慣の改善
規則正しい生活は自律神経を整え、自律神経と関係の深い腸の健康にもつながります。
生活習慣の中でも、腸に対する影響が大きいのは睡眠とストレスです。
腸の蠕動運動は、副交感神経が優位でリラックスした状態のときに活発に行われるといわれています。したがって、睡眠不足やストレスがかかった状態が続くと、交感神経が優位になりリラックスできず、腸の蠕動運動が十分に行われないことにつながる可能性があります。
腸活のためにも、睡眠時間の確保とストレス発散を心掛けましょう。
ただ、睡眠時間が確保できていても、睡眠の質が悪いとストレスを感じやすくなります。そのため、寝る前にスマホやパソコンを使わない、電気を消すなど、質の良い睡眠がとれるようにするのも大切です。
サプリをとる
生きた善玉菌を直接とって腸内フローラを良好に保つことを「プロバイオティクス」といい、腸活の一つとして知られています。
善玉菌は胃酸や調理による加熱によって分解されることが多く、大腸まで届かないこともあります。菌が死んでしまっても、腸内細菌のエサになるなど有用な働きをすることは分かっていますが、生きた善玉菌も必要です。
「生きたまま腸に届く」ように開発された善玉菌サプリメントなどを利用して、腸内環境を整えるのもよいでしょう。
ただし、取り入れた善玉菌は、一定の期間が過ぎると体外に排出されてしまうため、良い腸内フローラを保つためには継続的にとる必要があります。
良好な腸内環境を保つ食事の基本
良好な腸内環境を保つためには、バランスの良い食事を心掛けるとともに、腸内の善玉菌を増やす食べ物をとる必要があります。
善玉菌を含むものと善玉菌のエサとなるものを一緒にとる
善玉菌として知られているのは、乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌、糖化菌で、主に発酵食品に含まれています。
・乳酸菌を含む食品…ヨーグルト、チーズ、キムチや野沢菜漬けなどの漬物、発酵調味料(味噌、醤油など)
・ビフィズス菌を含む食品…直接とれる食品は少なく、ビフィズス菌が含まれているヨーグルトや乳酸菌飲料など
・酪酸菌を含む食品…ぬか漬けや臭豆腐など
・糖化菌を含む食品…納豆など
良い菌を取り入れ、数を増やす
善玉菌が好んで食べる「エサ」として水溶性食物繊維の多くやオリゴ糖があります。
食物繊維は水に溶けやすい「水溶性食物繊維」と、水に溶けにくい「不溶性食物繊維」に大きく分けられます。
多くの水溶性食物繊維は、腸内の善玉菌のエサとなって善玉菌を活性化します。
腸内細菌のエサになる食物繊維やオリゴ糖をとろう
腸に良い菌を積極的に取り入れることと同時に大切なのが、腸内に生息する腸内細菌を育て増やしていくことです。
腸内細菌とその宿主である人間は共生関係にあり、腸内細菌は、私たちの食べたものをエサにして生きています。
善玉菌が好んで食べる「エサ」となる食物繊維やオリゴ糖を積極的にとりましょう。
不溶性食物繊維や水溶性食物繊維をバランスよく
不溶性食物繊維と水溶性食物繊維は働きが異なるため、どちらかに偏ることなく両方摂取することが大切です。
理想的な割合は、不溶性食物繊維2に対して水溶性食物繊維1といわれています。
水溶性食物繊維は大麦などの穀物、果物、海藻類、繊維の柔らかい野菜に多く、不溶性食物繊維は根菜類やきのこ類、野菜、豆類に多く含まれています。
ビタミンB1など
腸内細菌は乳酸菌をはじめ、ビフィズス菌、酪酸菌、糖化菌などさまざまな種類があり、それらの菌がリレーのように影響し合って活動しています。
この菌のリレーを助けるのが、ビタミンB1やビタミンDなどの栄養素だといわれています。
菌のエサになる食物繊維やオリゴ糖と合わせて、意識してとりましょう。
・ビタミンB1を含む食品…豚肉、大豆製品、玄米など
・ビタミンDを含む食品…青魚、きのこ類、卵など
腸活におすすめの素材を紹介
野菜を豊富に含んだ料理を毎日摂取するのは大変、と感じている方も多いのではないでしょうか。
毎日の食生活に取り入れることで、ちょっと野菜の摂取量が少ない日でもしっかりと食物繊維を摂取することができる、スーパー大麦とイヌリンをご紹介します。
スーパー大麦
一般的な大麦の2倍以上の食物繊維を含むスーパーフード。お米と一緒に炊くことができるため調理も簡単です。
プチプチとした食感と自然な甘さで、いつもの食事がいっそうおいしくなります。
イヌリン
自然界ではチコリの根やごぼうに多く含まれている水溶性食物繊維の一種です。
キク科の植物が根などに貯蔵する栄養素で、人が摂取すると大腸まで届き、大腸で腸内細菌によって代謝されます。
腸活におすすめのレシピ
まずは定番の使い方として、スーパー大麦はご飯に混ぜる、イヌリンは飲み物に混ぜるだけなど、簡単にできるレシピをご紹介します。
慣れてきたら、おかずにうまく取り入れることにも挑戦してみてください。
スーパー大麦を使ったレシピ
基本の使い方として、お米と一緒に炊いて作るスーパー大麦ご飯をご紹介します。
食生活を変えようと思っても、手間がかかるとなかなか続かないもの。
そんなときにはいつものご飯に入れて、一気に食物繊維量をアップさせましょう。
スーパー大麦ご飯のおいしい炊き方
https://biolier.jp/recipe/staple/chikara-staple/recipe-mugi000/
スーパー大麦ご飯に、レンジで作る簡単なおかずをプラスして丼にすれば、1杯で栄養バランスの整った食事になります。
スーパー大麦のチキンロコモコ丼をレンチンで
https://biolier.jp/recipe/staple/chikara-staple/recipe-mugi066/
イヌリンを使ったレシピ
イヌリンは普段の飲み物や汁物に混ぜるだけで、簡単に食物繊維量を増やすことができます。
もともと持っている食材の味を損なうことなく、野菜の苦みなどをマスキングして感じにくくする効果があるため、野菜ジュースにもぴったり。
さわやかグリーンスムージー イヌリン入り
https://biolier.jp/recipe/drink/inulin-drink/recipe-inu011/
クリーミーアボカドシェイク イヌリンいり
https://biolier.jp/recipe/drink/inulin-drink/recipe-inu012/
今日から腸活を始めよう
腸活には生活習慣の改善や運動などいろいろな方法がありますが、まずは食事の改善から始めるのがおすすめです。
腸内環境を整えるために、バランスの良い食事を心掛け、特に腸内細菌に働きかける食材を積極的に摂取するのがおすすめです。
善玉菌を含む発酵食品を摂取するとともに、善玉菌のエサである食物繊維やオリゴ糖を摂取し、腸内の善玉菌を活性化していきましょう。
腸内環境は日々入れ替わっていますので、できることから始めることが大切です。
福井 美典 /医師(糖尿病専門医・抗加齢医学専門医・救急科専門医・総合内科専門医・栄養療法医・美容皮膚科医)
糖尿病内科・栄養療法・美容皮膚科に従事。
分子栄養学に基づき、不足栄養素を補うことで、 からだの細胞を活性化させる栄養療法を取り入れている。 糖尿病診療においては、からだにやさしい血糖値コントロールを基本に、低糖質・高たんぱく質の食事の大切さを、臨床で自ら栄養指導をしている。 美容皮膚科診療においては、美容施術のみならず、栄養療法を基本としたインナーケアにも尽力している。 公式instagram:https://www.instagram.com/fukuinaika.biyou.eiyou/ 公式HP:https://www.seijinkai-clinic.com/ |
・腸内細菌と健康- e-ヘルスネット – 厚生労働省(令和6年7月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html
・食物繊維の必要性と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省(令和6年7月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
・乳酸菌 e-ヘルスネット-厚生労働省(令和6年7月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-026.html
・ビフィズス菌 e-ヘルスネット-厚生労働省(令和6年7月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-029.html