腸活に良い菌というと、イメージされやすいのは善玉菌の代表である乳酸菌やビフィズス菌でしょうか。
乳酸菌やビフィズス菌ももちろん大切ですが、腸活効果で最近話題に上がることが多いのは「酪酸産生菌」です。
酪酸産生菌は、短鎖脂肪酸の1つである酪酸を産生します。
近年、善玉菌などの腸内細菌そのものの大切さと共に、腸内細菌が腸の中で生み出す物質にも注目されており、その代表となるのが短鎖脂肪酸です。
腸内環境を整えるために必要な短鎖脂肪酸、酪酸産生菌について、どのようなはたらきをするかをはじめ、どんな食品からとれるかなど、詳しく解説します。
スーパー大麦を摂取した時の酪酸産生菌の増え方に関する研究についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
短鎖脂肪酸とは
酪酸産生菌を知るうえで重要となるのが「短鎖脂肪酸」です。
脂肪酸と聞いても腸活のイメージを持たない方が多いかもしれませんが、腸内フローラを整えるのに欠かせません。
脂肪酸は、油や脂肪の中に含まれる成分で、炭素が数個~数十個、鎖状につながった構造を持っています。
脂肪酸のうち、炭素の数が6個以下のものを短鎖脂肪酸と呼び、腸内細菌が作る、酪酸、プロピオン酸、酢酸などの有機酸を含みます。
この短鎖脂肪酸は腸内で腸内細菌が産生する代表的な物質で、さまざまな健康効果が発見され今も研究が進められている期待の成分です。
酪酸産生菌とは
酪酸を作る菌をまとめて「酪酸産生菌」と呼ばれているため、「酪酸産生菌」という1種類の菌の名前ではありません。
酪酸産生菌は腸内で酪酸や酢酸を作り出し、悪玉菌が増えるのを防いでいます。
酪酸産生菌から作り出された酪酸は、腸の細胞にとって非常に重要なエネルギー源であり、抗炎症作用などさまざまな健康効果があります。
また、酪酸により酸素が消費されることで、腸の中で乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が住みやすい環境になります。
<酢酸は?>
日本人の腸内で最も多いとされている短鎖脂肪酸は酢酸です。
酢酸は、腸内の傷を早く治す効果があり、体内に異物が入らないようにする腸の防御機能を保つために必要な物質です。
酢酸といえばお酢に含まれていることで有名ですが、食品で摂取しても大腸までは届かず、腸内の酢酸を増やすことはできません。
腸内にある酢酸は、ほとんど腸内細菌によって産生されたものだと考えられています。
酪酸を作り出せるのは酪酸産生菌だけ
人の腸管、特に大腸には1000種類、100兆個もの腸内細菌が生息しています。
腸壁にびっしりとみられる腸内細菌の集まりのことを、腸内細菌叢、または腸内フローラと呼びます。
腸内に住むさまざまな細菌たちが、同じ種類で集合体を作って生息している様子がお花畑のようだとして腸内フローラと呼ばれますが、酪酸産生菌もその腸内細菌の1つです。
腸内細菌は種類によって、産生する物質が異なり、酪酸産生菌が作る酸は、酪酸と酢酸です。
酢酸はビフィズス菌にも作れますが、酪酸を作れるのは酪酸産生菌だけで乳酸菌やビフィズス菌は、酪酸を作ることができません。
善玉菌の種類と特徴
乳酸菌 | ビフィズス菌 | 酪酸産生菌 | |
はたらき | 乳酸を作る細菌の総称。 | 乳酸、酢酸を作り出す。 | 酪酸を作る細菌の総称。大腸の主要なエネルギー源。 |
作り出す酸の種類 | 乳酸 | 乳酸+酢酸 | 酪酸+酢酸 |
生息している場所 | 小腸下部~大腸 | 大腸 | 大腸 |
酪酸産生菌を増やすには?
酪酸産生菌を増やすためには、酪酸産生菌を直接とることと、酪酸産生菌のエサとなる食物繊維をとる方法があります。
酪酸産生菌は食品にも含まれていますが、限られた食品にしか含まれていません。
酪酸産生菌を含む食品を摂取
酪酸産生菌はぬか漬けや臭豆腐などに含まれています。
乳酸菌はヨーグルトをはじめ、さまざまな発酵食品に含まれていますが、酪酸産生菌はにおいが独特であり、これらの限られた食品に含まれている程度です。
普段の食事から継続的に摂取するのが難しい善玉菌であり、直接とりたい場合はサプリメントなどもあわせて検討すると良いでしょう。
整腸剤として知られるものの中には、酪酸産生菌を含むものがあります。
これらに使用される酪酸産生菌は芽胞(がほう)という強い膜に覆われているため、消化液や消化酵素などの影響を受けにくく、生きたまま腸に届いて整腸作用を発揮します。
酪酸産生菌のエサとなる食物繊維を摂取
酪酸産生菌の活動を助けるために、酪酸産生菌の「エサ」となる食品を日々の食事にとり入れるのも1つの方法です。
酪酸産生菌だけを増やしても、腸内で酪酸産生菌が良い活動ができなければ、腸内環境は改善されません。
腸内細菌は、人の体に良い影響をもたらす「善玉菌」、悪い影響をもたらす「悪玉菌」、どちらでもない「日和見菌」の3グループに分けられます。
理想的な割合は「善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7」といわれており、良い腸内環境のためには善玉菌が優勢な状態を作ることが大切です。
善玉菌を増やすには、生きた善玉菌を含む食品を直接とることや、善玉菌が好んで食べる「エサ」を摂取することが大切で、食事を通して補うことができます。
この善玉菌が好んで食べる「エサ」が、水溶性食物繊維の多くやオリゴ糖です。
水溶性食物繊維やオリゴ糖が腸内で善玉菌のエサとなって善玉菌を増やすことで、短鎖脂肪酸の産生が活発におこなわれ、腸内環境を整えます。
水溶性の食物繊維は、大麦などの穀類や海藻類、果物に多いため、食事に積極的にとり入れていきましょう。
先ごろ厚生労働省から発表された「日本人の食事摂取基準」の改定案では、理想的な食物繊維摂取量が成人25g/日に対して、その中央値が18歳以上で13.3g/日となっており、食物繊維の1日の摂取量が、目標量にすら達していないといわれています。まずは食物繊維の多い野菜などをしっかりととり入れ、そのうえで水溶性の食物繊維を意識してとりましょう。
水溶性食物繊維をとろう
食物繊維は水に溶けやすい「水溶性食物繊維」と、水に溶けにくい「不溶性食物繊維」に大きく分けられます。
また、前述の通り水溶性の食物繊維は主に、腸内の善玉菌のエサとなって善玉菌の活動を助けます。その際、善玉菌が短鎖脂肪酸を産生することで様々な健康効果を得ることができます。
不溶性の食物繊維は主に、便の材料となって腸内で膨らみ、腸の蠕動運動を促すはたらきがあります。
どちらも腸の健康には欠かせない成分であり、どちらも摂取することが大切ですが、意識しないととりにくいのは水溶性の食物繊維だといわれています。
厚生労働省が行っている令和元年国民健康・栄養調査の結果を参考に、実際に摂取している食物繊維量をみてみると、以下のようになります。
【男性の食物繊維摂取量の中央値(g/日)】
20~29歳 | 30~39歳 | 40~49歳 | 50~59歳 | 60~69歳 | 70~79歳 | 80歳以上 | |
総量 | 16.4 | 17.7 | 17.4 | 18.7 | 19.8 | 20.9 | 19.3 |
水溶性 | 2.8 | 3.1 | 3.1 | 3.3 | 3.6 | 4.1 | 3.7 |
不溶性 | 9.2 | 10.2 | 10.2 | 11.0 | 12.3 | 12.8 | 12.2 |
【女性の食物繊維摂取量の中央値(g/日)】
20~29歳 | 30~39歳 | 40~49歳 | 50~59歳 | 60~69歳 | 70~79歳 | 80歳以上 | |
総量 | 14.0 | 15.2 | 15.5 | 16.1 | 19.1 | 19.5 | 17.2 |
水溶性 | 2.7 | 3.0 | 2.9 | 3.2 | 3.8 | 3.9 | 3.1 |
不溶性 | 8.3 | 9.1 | 9.4 | 10.0 | 12.5 | 12.6 | 10.6 |
食物繊維は1日にとりたい目標量が設定されており、18歳~64歳で男性21g/日以上、女性で18g/日以上ですが (日本人の食事摂取基準(2020 年版 ))、この報告によると目標量を下回っていることが多く、特に水溶性食物繊維の摂取が少ない傾向があります。
食物繊維の中でも、水溶性食物繊維をより意識してとるようにしましょう。
<水溶性食物繊維が多く含まれている食品>
大麦などの穀物、果物や海藻類、繊維のやわらかい野菜に多く含まれ、ネバネバしたものやサラサラしたものなど、さまざまな形状をしています。
・穀類(大麦など)
・果物(キウイやりんご、かんきつ類、プルーンなど)
・野菜類(モロヘイヤやオクラなど)
・海藻類(昆布、わかめ、もずくなど)
酪酸産生菌は健康長寿にも有効?
健康長寿の人の大腸にはビフィズス菌と酪酸産生菌が多いことがわかってきました。
健康長寿の人たちの腸内細菌を調べた研究で、ビフィズス菌や酪酸産生菌などの善玉菌が圧倒的に多かったという報告があります。
「長寿菌」などと呼ばれ、健康寿命に関わっていると考えられています。
腸内の健康状態を知る方法として最も簡単なのは便を観察することで、長寿菌が多い便は以下の特徴があります。
・黄褐色(特にビフィズス菌などの善玉菌が多いと黄褐色になる)
・臭くない
・力まずに出る
・十分な量がある(バナナ2~3本程度)
・食べたものが16~24時間ほどで便に出る
逆に腸内環境が乱れていると、便秘になりやすく健康にもよくありません。
毎日便が出ていると便秘と思わない方もいますが、「慢性便秘診療ガイドライン2017」 による便秘の定義では、回数によらず、便を出しにくい、便が出ていても出し切れていないような気がする、時間がかかる、ということも便秘に当てはまるとされています。
逆に2~3日に1回の排便であっても、すっきりと出ていれば便秘には当てはまりません。
便の回数ではなく、排便時に問題がないかに注目してみましょう。
酪酸産生菌増加が期待できる、スーパー大麦の効果検証
酪酸産生菌のエサである水溶性食物繊維。
その水溶性食物繊維を豊富に含むスーパーフード、スーパー大麦を摂取したことによる腸内フローラ、特に酪酸産生菌の変化について、関西医科大学小児科学講座の金子一成先生の研究結果をご紹介します。
食物繊維を豊富に含む大麦は、昔から日本人の食生活に根付いており、腸内環境を改善する食品として知られています。
その大麦(一般的な大麦である押麦)と比較して2倍の食物繊維と4倍のレジスタントスターチを含むスーパー大麦を健康な人が毎日摂取した場合の酪酸産生菌の増え方について調査しました。
・対象
健康な成⼈18 名(男性12 名、⼥性6 名、年齢中央値35.9 歳)
・方法
スーパー大麦20.4gを含むグラノーラ40g※を1⽇1回・週4回以上、4週間摂取してもらいました。
※⾷物繊維5.6g、レジスタントスターチ0.68g含有
摂取開始前・4週間摂取終了時・摂取終了1か月後に便を採取し、次世代シーケンサーで便中の細菌遺伝子を解析し、腸内フローラに占める酪酸産生菌の割合(%)などを調査。
同時に⾼速液体クロマトグラフィーを⽤いて便中の短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)の濃度も測定しました。
・結果
図1に示すように、酪酸産生菌の割合はスーパー大麦摂取開始前が中央値5.9%だったのに対して、4週間の摂取終了時は8.2%と増えていました。
しかし、摂取をやめて1か月経つと5.4% と摂取開始前の水準に低下していました。
また、図2に示すように、便中短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)濃度も、スーパー大麦を摂取開始後4週間目には摂取開始前に比べて増加しましたが、摂取をやめて1か月経つと、摂取開始前の水準に戻っていました。
以上の結果から、スーパー大麦を食生活に摂り入れると、健康に良い影響を与える酪酸などの短鎖脂肪酸が増える可能性があることが確認されました。。
しかし、摂取をやめるともとに戻ってしまうため、その効果は摂取している期間に限られる可能性が高いようです。
現在、金子一成先生の研究チームでは、腸内フローラの乱れが認められることの多い食物アレルギーのお子さんにスーパー⼤⻨を毎日摂取してもらい、その症状が改善するかどうかについての検討をおこなっています。
<スーパー大麦とは>
大麦は食物繊維の多い食品として知られていますが、その大麦の中でも食物繊維の量と種類が多いのがスーパー大麦です。
オーストラリア連邦科学産業機構(CSIRO)が国民の健康を守るために10年かけて開発した食品でスーパーフードといわれています。
スーパーフードとは一般的な食品と比べて栄養価が高い食品のことをいい、スーパー大麦は食物繊維をはじめ、ビタミンB6などのビタミン、鉄や亜鉛などのミネラルを豊富に含んでいます。
最もポピュラーな食べ方は白米に混ぜて一緒に炊飯する方法ですが、その他にも茹ででおいてサラダやスープのトッピングとして使ったり、ヨーグルトに加えたりするのもおすすめです。
プチプチとした食感がクセになるおいしさで毎日続けやすく、日々の食生活に簡単にとり入れられます。
研究結果をみても、腸内環境の改善には長期的にとれる食品を選択するのが良いですね。
まとめ
短鎖脂肪酸は腸内で腸内細菌が産生する代表的な物質で、さまざまな健康効果が発見され注目を集めています。
特に短鎖脂肪酸の1つである酪酸は腸上皮細胞の最も重要なエネルギー源であり、抗炎症作用など優れた健康効果を発揮します。
腸内細菌の中でも、酪酸を作り出せるのは酪酸産生菌だけで、酪酸産生菌は酪酸や酢酸を作り出し、悪玉菌が増えるのを防いでいます。
乳酸菌が含まれている食品は数多くありますが、味やにおいが独特である酪酸産生菌が含まれている食品は限られており、代表的な食品はぬか漬けや臭豆腐です。
普段の食事から継続的に摂取するのが難しい善玉菌であるため、直接とりたい場合はサプリメントなどもあわせて検討すると良いでしょう。
酪酸産生菌の活動を助けるために、酪酸産生菌の「エサ」である水溶性食物繊維を日々の食事にとり入れるのも1つの方法です。
水溶性食物繊維が豊富なスーパー大麦を4週間食べた時の酪酸産生菌量の変化を調べた研究では、健康に良い影響を与える酪酸などの短鎖脂肪酸が増える可能性があることが確認されましたが、摂取をやめるともとの状態に戻ったため習慣的にとり入れるのがおすすめです。
酪酸産生菌を含む善玉菌を活性化させて、腸内環境を整えましょう。
福井 美典 /医師(糖尿病専門医・抗加齢医学専門医・救急科専門医・総合内科専門医・栄養療法医・美容皮膚科医)
糖尿病内科・栄養療法・美容皮膚科に従事。
分子栄養学に基づき、不足栄養素を補うことで、 からだの細胞を活性化させる栄養療法を取り入れている。 糖尿病診療においては、からだにやさしい血糖値コントロールを基本に、低糖質・高たんぱく質の食事の大切さを、臨床で自ら栄養指導をしている。 美容皮膚科診療においては、美容施術のみならず、栄養療法を基本としたインナーケアにも尽力している。 公式instagram:https://www.instagram.com/fukuinaika.biyou.eiyou/ 公式HP:https://www.seijinkai-clinic.com/ |
・食物繊維の必要性と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省(令和6年2月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
・国民健康・栄養調査 令和元年国民健康・栄養調査 年次 2019年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口 (e-stat.go.jp) https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450171&tstat=000001041744&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000001148507&tclass2val=0
・食物繊維の必要性と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省(令和6年2月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
・慢性便秘症診療ガイドライン2017 – J-Stage https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/2/109_254/_pdf
・栄養素等の目安量等_日本人の食事摂取基準(2020年版)より抜粋 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586559.pdf