医師監修・スーパー大麦で腸内フローラや短鎖脂肪酸はどうなる? | ビオリエ | 帝人株式会社
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コラム

スーパー大麦は酪酸菌を増やす?

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「腸活」のためには、善玉菌とそのエサになる食物繊維やオリゴ糖と合わせて摂ることが良いとされています。
善玉菌として納豆などの発酵食品を積極的に摂られている方も多いかもしれませんが、食物繊維の重要性について認識されている方はまだまだ少数かもしれません。
腸内細菌中の善玉菌が食物繊維をエサとして発酵すると、身体にとって有用な短鎖脂肪酸を産生することが知られており、短鎖脂肪酸により腸内環境が酸性になると善玉菌がすみやすい環境になるという好循環が生まれます。

短鎖脂肪酸の中でも酪酸は特に身体にとって有用とされており、その酪酸を産生するのが酪酸菌です。
健康な成人が食物繊維を多く含むスーパー大麦を摂取することによる腸内フローラ、特に酪酸菌の変化について関西医科大学小児科学講座の金子一成先生が研究を行われましたので、その結果についてご紹介します。


ここからは、「関西医科大学 小児科学講座 教授・副学長 金子一成先生」に執筆いただきました。

執筆者

金子一成先生 金子 一成(かねこ かずなり)


関西医科大学小児科教授・副学長。医学博士。
国内の小児関連の各種学会(日本小児科学会、日本小児腎臓病学会、日本夜尿症学会や日本小児泌尿器学会など)の役員を務める。専門医資格は、小児科専門医、および日本小児泌尿器学会認定医。専門分野は小児科学全般、小児腎臓病学と腸内細菌学。

腸内には100兆もの細菌が存在しており、人体に良い影響を及ぼす「善玉菌」、有害物質を作り出す「悪玉菌」、勢力の強い方の作用が強くなる「日和見菌」など、様々な作用を及ぼす菌が棲んでおり、腸内フローラ(あるいは腸内細菌叢)と呼ばれています。これらの菌のバランスは体の健康を左右する重要な存在であることが分かってきています。健康な成人では、善玉菌がおよそ20%、悪玉菌が10%、そして日和見菌が70%程度と考えられています。この腸内フローラのバランスが崩れることをディスバイオーシスと呼び、様々な病気に関係しています。

酪酸菌とは?

乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌は、健康維持に不可欠な短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸など)を作り出します。善玉菌とされる菌としては聞き慣れた乳酸菌やビフィズス菌のほかにも酪酸菌があります。酪酸菌は「酪酸」という短鎖脂肪酸を作る菌の総称で、腸内の食物繊維をエサとして、発酵・分解を行い「酪酸」を作り出します。酪酸菌が作りだす「酪酸」には様々な健康効果があります。具体的には大腸のエネルギー源となるほか、有害物質を作り出す悪玉菌の発育を抑制する働きや乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が棲みやすい腸内環境を作る働きがあります。腸内フローラがディスバイオーシスに陥らないよう、良好な腸内環境を維持するためには酪酸が重要なのです。実際、私たち関西医科大学小児科の研究チームは、⾷物アレルギーや特発性ネフローゼ症候群という病気の子どもにおいて、腸内フローラの中に占める酪酸菌の割合が少ないことを確認して報告しました1,2 )。

酪酸菌と酪酸を増やす方法

では腸内フローラにおいて、重要な善玉菌の一種である酪酸菌を増やすにはどうしたら良いのでしょうか?食物線維が豊富な大麦の摂取は日本人の腸内細菌叢に好影響を及ぼすことが報告されています3)。そこで私たちは、通常の⼤⻨と⽐較して2 倍の⾷物繊維と4 倍のレジスタントスターチを含むスーパー大麦を毎日摂取したら、効率的に酪酸菌が増えるのではないかと考え、帝⼈株式会社の協⼒を得て研究を⾏いました4)。方法は、健康な成⼈18 名(男性12 名、⼥性6 名、年齢中央値35.9 歳)に、スーパー大麦20.4gを含むグラノーラ40g(⾷物繊維5.6g、レジスタントスターチ0.68g を含有)を1⽇1回・週4回以上、4週間摂取してもらい、摂取開始前・4週間摂取終了時・摂取終了1 か⽉後に便を採取し、次世代シーケンサーで便中の細菌遺伝子を解析し、腸内フローラに占める酪酸菌の割合(%)などを調べました。同時に⾼速液体クロマトグラフィーを⽤いて便中の短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)の濃度も測定しました。その結果、図1に示すように、酪酸菌の割合はスーパー大麦摂取開始前が中央値5.9% [四分位範囲2.4-6.8]だったのに対して、4週間の摂取終了時は8.2%[四分位範囲3.7-10.8]と増えていました。しかし摂取をやめて1か⽉経つと5.4% [四分位範囲2.3-9.0]と摂取開始前の⽔準に低下していました。

スーパー大麦の摂取による酪酸菌比率の変化

また図2に示すように、便中短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)濃度も、スーパー大麦の摂取開始後4週間目には摂取開始前に比べて増加するものの、摂取をやめて1か月経つと、摂取開始前の⽔準に戻ってしまいました。以上のことから、個人差はあるものの、スーパー大麦を毎日摂取すると、4週間程度でも腸内の酪酸菌の比率や短鎖脂肪酸の量は増えること、しかしながら摂取をやめると1か月後にはもとの水準に戻ってしまうことが分かりました4)

スーパー大麦の摂取による短鎖脂肪酸の便中濃度の変化

そこで現在、私たちの研究チームでは、腸内フローラにディスバイオーシスが認められることの多い食物アレルギーのお子さんにスーパー⼤⻨を毎日摂取して頂くことで、その症状が改善するかどうかについての検討を行っています。

まとめ

⾷物繊維を豊富に含む機能性⼤⻨「スーパー大麦」を毎日摂取することで腸内フローラにおける善玉菌である酪酸菌の比率が増加し、健康に重要な役割を担う酪酸を始めとする短鎖脂肪酸も増える可能性があります。ただしその効果はあくまでも摂取している期間に限られる可能性が高いようです。健康増進に限らず、何事も「継続は力なり」ということですね。


参考文献
1:Tsuji S, Suruda C, Hashiyada M, Kimata T, Yamanouchi S, Kitao T, Kino J, Akane A, Kaneko K. Gut Microbiota Dysbiosis in Children with Relapsing Idiopathic Nephrotic Syndrome. Am J Nephrol. 2018;47(3):164-170. doi: 10.1159/000487557. Epub 2018 Mar 13. PMID: 29533950.
2:Yamagishi M, Akagawa S, Akagawa Y, Nakai Y, Yamanouchi S, Kimata T, Hashiyada M, Akane A, Tsuji S, Kaneko K. Decreased butyric acid-producing bacteria in gut microbiota of children with egg allergy. Allergy. 2021 Jul;76(7):2279-2282. doi: 10.1111/all.14795. Epub 2021 Jun 2. PMID: 33650199.
3:Matsuoka T, Hosomi K, Park J, Goto Y, Nishimura M, Maruyama S, Murakami H, Konishi K, Miyachi M, Kawashima H, Mizuguchi K, Kobayashi T, Yokomichi H, Kunisawa J, Yamagata Z. Relationships between barley consumption and gut microbiome characteristics in a healthy Japanese population: a cross-sectional study. BMC Nutr. 2022 Mar 14;8(1):23. doi: 10.1186/s40795-022-00500-3. PMID: 35287729; PMCID: PMC8919566.
4:Akagawa S, Akagawa Y, Nakai Y, Yamagishi M, Yamanouchi S, Kimata T, Chino K, Tamiya T, Hashiyada M, Akane A, Tsuji S, Kaneko K. Fiber-Rich Barley Increases Butyric Acid-Producing Bacteria in the Human Gut Microbiota. Metabolites. 2021 Aug 22;11(8):559. doi: 10.3390/metabo11080559. PMID: 34436500; PMCID: PMC8399161.
金子一成先生 金子 一成(かねこ かずなり)


関西医科大学小児科教授・副学長。医学博士。
1984年、新潟大学医学部卒業。1984年、医師国家試験合格後、順天堂大学小児科入局。1989年、順天堂大学大学院卒業。同年から2年間、英国ロンドン小児病院・腎臓科に留学。1998年、順天堂大学医学部小児科学講座・講師、2003年、順天堂大学浦安病院小児科学・助教授を経て、2005年、関西医科大学小児科学講座・主任教授就任。2021年から関西医科大学・副学長を兼任、現在に到る。

国内の小児関連の各種学会(日本小児科学会、日本小児腎臓病学会、日本夜尿症学会や日本小児泌尿器学会など)の役員を務める。専門医資格は、小児科専門医、および日本小児泌尿器学会認定医。専門分野は小児科学全般、小児腎臓病学と腸内細菌学。
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