近年注目されている「腸活」。
腸活とは、食生活の改善や運動などによって腸内環境を整えることを指します。中でも、食物繊維の多い食事をとることは腸活をするにあたって非常に重要です。
今回は、腸活に欠かせない食物繊維の一種である「イヌリン」について、どんな健康効果があるのか詳しくお伝えします。ダイエット効果についてもご紹介していますので、日々の食生活でダイエットに取り組みたい方もご参考にされてみてください。
また、食事に取り入れる時の適切な量についてもご紹介しています。
イヌリンとは
イヌリンとは、自然界ではチコリの根や菊芋、ごぼう等に多く含まれている水溶性食物繊維の一種です。
イヌリンはチコリの根や菊芋には15~20%、ニンニクに9~16%、ごぼうに3.5~4%、玉ねぎに2~6%含有しているといわれます。
食物繊維は水に溶けやすい水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維に分類され、水溶性と不溶性で働きが異なります。
イヌリンに含まれる水溶性食物繊維は腸内細菌のエサとなって善玉菌を増やし、腸内環境を整える働きがあります。
最近では、イヌリンが飲料やヨーグルトなどの加工食品に用いられることも多く、イヌリン自体のサプリメントなども市販されるようになっています。
昔から食べられてきた食物繊維
イヌリンは昔から、多くの国々で食品や民間療法の薬的な使い方で親しまれてきました。
紀元前4世紀のエジプトのパピルス文書には、チコリが魔力を持ったハーブとして記載されていたという記録があります。ヨーロッパでは13世紀にチコリの栽培が始まり、16世紀には一定規模になっていたとされて、チコリの根を焙煎して淹れたチコリコーヒーは少なくとも15世紀頃よりトルコ、イラン、エジプトで飲まれており、17~19世紀頃の植民地時代、ヨーロッパで代替コーヒーとして飲む習慣が広まっていったとされています。現在もノンカフェインコーヒーとして、欧米中心に親しまれています。
チコリの根だけでなく、ニンニクやゴボウ、玉ねぎ、バナナといった身近な野菜、果物等に含まれるイヌリンは、長い間、日常的な食生活を通して世界各国で継続的に食されてきたことからも、安全性の高い食品といえます。
海外で最もポピュラー
イヌリンは水溶性食物繊維の一種で、日本でも主に粉末のサプリメントタイプの商品が販売されています。
イヌリンは日本ではまだなじみが薄く、知らない人も多くいらっしゃるかもしれません。
しかし欧米、アジアなどを中心に、イヌリンは加工食品の原材料として使用され、世界で使用される水溶性食物繊維の中で最も使用量が多い食品素材です。海外でイヌリンは一般的に使われている食物繊維なのです。
イヌリンの健康効果
まだ情報の少ない時代から、イヌリンは民間療法の薬としても使用されてきました。
食物繊維というと便秘解消のイメージがありますが、便秘以外にもさまざまな健康効果が期待できます。
近年の研究では、腸と脳に密接な関係があることが知られてきており、自律神経や、ストレス緩和にも深く影響を与えるなど、食物繊維を摂取し、腸内環境を整えることの重要性がますます高まっています。
ここでは、主に3つの健康効果について詳しくご説明します。
①整腸作用
腸内には、1000種類、100兆個に及ぶ腸内細菌が住んでいます。腸内細菌は、健康に良い影響をもたらす「善玉菌」、悪い影響をもたらす「悪玉菌」、どちらでもない「日和見菌」の3グループに分けられます。
理想的な割合は「善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7」といわれ、腸内環境を整えるには善玉菌が優勢な状態をつくることが大切です。
善玉菌を増やすには、生きた善玉菌を含む食品を直接とることや、善玉菌が好んで食べる「エサ」を摂取することが大切で、食事を通して補うことができます。
この善玉菌が好んで食べる「エサ」が、イヌリンなどの水溶性食物繊維やオリゴ糖です。なお、水溶性食物繊維であっても善玉菌の「エサ」とならないものもあります。
イヌリンが腸内で善玉菌のエサとなり善玉菌を増やし、短鎖脂肪酸という物質を産生することにより腸内環境を整えます。
さらに、腸内細菌を元気にすることで、腸内でビタミン(B1・B2・B6・B12・K・ニコチン酸・葉酸)や短鎖脂肪酸の産生が活発になり、腸内環境の改善だけでなくさまざまな健康効果が得られると言われています。
<イヌリンと難消化性デキストリン>
イヌリンと良く比較されるのが、同じ水溶性食物繊維である難消化性デキストリンです。
どちらも水溶性食物繊維ですが、腸内で腸内細菌のエサとなる割合を比べると、難消化性デキストリンがその約半分であるのに対し、イヌリンはほぼ全てが腸内細菌のエサになることが確認されています。
②血糖値の急な上昇を抑える
食べ物を食べると、血糖値が上昇します。食後に血糖値が上がること自体は自然な反応ですが、急激に上がったり、高い状態が続いたりすると良くありません。
食事の中で食物繊維を一緒にとると、消化・吸収がゆっくりとなるため血糖値が急激に上がるのを防いでくれます。
また、食物繊維は食事をとった後の血糖値に影響を与えることもわかっており、セカンドミール効果とも呼ばれています。
セカンドミール効果とは、食物繊維など、血糖値の上昇を緩やかにする食事をとると、セカンドミール(2食目)での急激な血糖値の上昇が抑えられるという効果です。朝に食物繊維の多い食事をとれば、昼食時の血糖値上昇も緩やかにする効果が期待できます。
セカンドミール効果の詳細なメカニズムについては解明されていない点も多くありますが、イヌリン等の食物繊維が腸内細菌により分解されて生じる短鎖脂肪酸が関与しているのではないかと考えられています。
③糖質・コレステロールの吸収を抑える
食物繊維の中でも主に水溶性食物繊維の多くは、水に溶けると粘度のある液体となり、食べ物が移動するスピードを緩やかにする働きがあります。
そのため、腸の中を移動する際に、コレステロールやコレステロールからつくられる胆汁酸を排泄するのを促進し、良好なバランスを保ちます。
コレステロールは細胞膜をはじめ、ホルモン、胆汁酸の材料となり、体には欠かせないものですが増えすぎると動脈硬化の原因になる可能性があり注意が必要です。
イヌリンはダイエットにもぴったり
イヌリンは、水溶性食物繊維の機能である血糖値の上昇抑制や糖質・コレステロールの吸収抑制という効果からもダイエットの強い味方であることがわかりますが、これらの機能に加えて、砂糖や脂肪のかわりに置き換えて使える点もダイエット時に積極的にとりたい理由です。
ここからは、ダイエットにも優秀な点を詳しく見ていきましょう。
食べ過ぎを防ぐ
イヌリンは粘性があるため、胃や腸の中をゆっくりと進んでいくという特徴があります。
そのため満足感を得られやすく、食べ過ぎを防いでくれます。
ジュースを例にとってみると、わかりやすいのではないでしょうか。
液体は簡単に摂取でき、消化・吸収スピードも速いため、満腹だと感じるまでに時間がかかり食べ過ぎにつながりやすくなります。
一方、ゼリー飲料のように粘度のあるものは飲むのに時間がかかるうえ、消化・吸収スピードも緩やかになります。
その結果、食べ過ぎを防いでくれます。
砂糖の代わりに使って糖質オフ
イヌリンは、その種類にもよりますが、一般に販売されているタイプはほんのりとした甘さがあることが多く、砂糖の代わりに使うこともできます。
砂糖が1g約4kcalなのに対してイヌリンは1g約2kcalと半分のエネルギーであり、糖分やカロリーを控えたい人におすすめです。
また、砂糖を使用する場面で使うことができるので、毎日の調理に取り入れやすく糖分やカロリーを減らしたうえで食物繊維の摂取量も増やすことができるので忙しい人にもぴったりです。
ダイエット中には、一石二鳥の嬉しい成分です。
脂肪の代わりに使ってカロリーカット
イヌリンは高濃度でお湯に溶かして冷やすと、脂肪に似た食感のゲルになります。
ラードのような感じで食感もなめらかなので、ホイップクリームやアイスクリームなどをつくる時に脂肪分の代わりとして一部を置き換えて使うことができます。
脂肪は1gで9kcalとかなり高カロリーですが、その一部をイヌリンゲルに置き換えることでカロリーカットが可能です。おまけに食物繊維も摂取できます。アイスクリームのようなスイーツだけでなく、焼きそばやお総菜などを作るときに使用すれば、脂肪のようなこっくりした感じをもたらすことができます。
イヌリン摂取時に気をつけたい点
イヌリンも食べ過ぎ注意!?
日本においては、私たちが口から摂取するもので、医薬品・医薬部外品以外のものは食品に該当します。
イヌリンも食品ですので、まれに体質や体調により合わない場合や、過剰にとり過ぎた場合に良くない効果が現れることがあります。
水溶性食物繊維は一般的に、過剰にとり過ぎるとお腹が緩くなるといわれています。
なぜなら水溶性食物繊維は、体内で水に溶けてゲル状になり便をやわらかくしてくれる効果がある一方で、とり過ぎると水分量が過剰になって下痢を起こしやすくなるからです。
そのため、水溶性食物繊維が含まれているサプリメントや健康食品には「過剰にとるとお腹が緩くなることがあります」などと注意が記されている場合があります。
商品の目安量を参考に
前述の通り、食品は医薬品のように用法用量がきっちりと決まっているわけではありませんので、目安量を参考にして摂取しましょう。
たくさんとったからといって効果が高まるということではありませんので、とり過ぎには注意が必要です。
また、とるタイミングも決まっていませんが、水溶性食物繊維の血糖上昇抑制効果や糖質・脂肪の吸収を抑える効果を考慮すると、食事前や食事と一緒に摂取するのがおすすめです。
とりたい食物繊維の量
食物繊維は、どのくらいとれば十分に摂取できているといわれているでしょうか。
日本人の食事摂取基準を参考に見てみましょう。
食事摂取基準では食物繊維の耐容上限量(これ以上はとらない方がいい量)は設けられていません。
とり過ぎることで悪い影響を与える研究結果が出されている栄養成分には耐容上限量が定められていますが、食物繊維はそのような報告は少なく、生活習慣病の一次予防に資するという理由でこのくらいはとりたいという目標量のみ設定されています。
食物繊維の摂取目標量
食物繊維は1日にとりたい目標量が設定されており、18歳~64歳で男性21g /日以上、女性18g/日以上です。
食事摂取基準では、食物繊維の目標量は水溶性・不溶性では分かれていません。
一般的には水溶性1に対して不溶性2の割合でとるのが、バランスが良いといわれています。
食物繊維の食事摂取基準(g/日)
性別 | 男性 | 女性 |
年齢等 | 目標量 | 目標量 |
18~29歳 | 21以上 | 18以上 |
30~49歳 | 21以上 | 18以上 |
50~64歳 | 21以上 | 18以上 |
65~74歳 | 20以上 | 17以上 |
75歳以上 | 20以上 | 17以上 |
妊婦・授乳婦 | ‐ | 18以上 |
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
海外の基準を参考にすると、上記の目標量は低く設定されていますが、現代の日本人は食物繊維を十分にとっている人が少ないというデータに基づき、高すぎる目標でなく、現実的な目標量として設定されています。アメリカやカナダの基準を参考にすると、は理想的には 24 g/日以上、できれば 14 g/1,000 kcal 以上を目標量とすべきであることも頭に入れておくと良いでしょう。
<食物繊維を十分にとるには>
食物繊維の豊富な食品として1番に名前があがるのは「野菜類」ですね。ですが、厚生労働省による「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本 21(第二次))」の中で、生活習慣病などを予防し、健康な生活を維持するため「野菜類を1日350g以上食べましょう」と目標が掲げられています。
しかし、同じ厚生労働省が実施している国民健康・栄養調査(平成30年)の報告では、野菜の平均摂取量は成人男性で約290g/日、女性で約270g/日であったそうです。
野菜を食べることは健康に良いとわかっていても、意識しないと目標量をとるのは難しいですね。
特に20~30歳代の若い世代は成人の中でも野菜の摂取量が少ない傾向があるため、意識して毎食野菜料理を1皿以上食べるように心がけましょう。
毎日少しずつ増やしていこう
食物繊維は一度に大量にとるのではなく、少量でも毎日継続することが大切です。
食物繊維は、食事中にとると血糖値の上昇を緩やかにするなど、食事と一緒にこまめにとった方が効果は高いからです。
1950年頃の日本人の食物繊維平均摂取量は、1人20g/日を超えていたといわれています。
食事の欧米化に伴い、若い方を中心に食生活が変わってきていますが、昔ながらの和食は健康的な食事をするうえで理想的な食事です。
食の多様化で、昔のような和食スタイルは難しいかもしれませんが、1日1回は和食を心がけるなど、まずは今よりも1日3~4g多く食物繊維をとることを心がけましょう。
国民栄養調査によると、食物繊維の中でも特に水溶性食物繊維をとっている人が少ないため、意識してとりたいですね。
<食物繊維を20gとる食事>
食物繊維を1日20gとるのは意外と難しいものです。
一般的なレタス、トマト、きゅうりの野菜サラダ小鉢1杯分の食物繊維量は0.7gほど。
食事にサラダを付けると野菜をとった気分になりますが、それだけでは全然足りていないかもしれません。
普段の食事の中で野菜料理を増やすほか、以下を意識すると摂取量をアップしやすくなります。
・主食に食物繊維の豊富な玄米や大麦、雑穀米を取り入れる
・海藻、きのこ類を活用する
・おやつは果物やナッツなど食物繊維豊富なものを選ぶ
・乾物を活用する
忙しくてなかなか食事を改善できない、という方はイヌリンの入った加工食品やサプリメントを利用するのも良いでしょう。
まとめ
イヌリンとは、自然界では、チコリの根や菊芋、ごぼう、玉ねぎ等に多く含まれている水溶性食物繊維の一種で、昔から薬としても使用されるなど健康効果の高い栄養成分です。
日本ではまだなじみの少ない栄養成分ですが、イヌリン入りの加工食品やサプリメントも多く市販され始めていますし、世界的では最も使用量の多い水溶性食物繊維です。
腸活をするうえで、水溶性食物繊維は欠かせない栄養成分であり、
その健康効果は、整腸作用をはじめ、血糖値の急な上昇を防ぐ、糖質・脂質の吸収を抑えるなど多岐にわたります。
また、イヌリンは砂糖や脂肪の代替になることからダイエットにも向いているといわれます。
食物繊維は1日にとりたい目標量が設定されていますが、不足しがちで特に水溶性食物繊維の摂取は意識的に行うことが重要です。
日々の食生活で食物繊維を意識するとともに、忙しいときには、イヌリンの入った加工食品やサプリメントを利用するなど工夫して積極的にとっていきましょう。
福井 美典 /医師(糖尿病専門医・抗加齢医学専門医・救急科専門医・総合内科専門医・栄養療法医・美容皮膚科医)
糖尿病内科・栄養療法・美容皮膚科に従事。
分子栄養学に基づき、不足栄養素を補うことで、 からだの細胞を活性化させる栄養療法を取り入れている。 糖尿病診療においては、からだにやさしい血糖値コントロールを基本に、低糖質・高たんぱく質の食事の大切さを、臨床で自ら栄養指導をしている。 美容皮膚科診療においては、美容施術のみならず、栄養療法を基本としたインナーケアにも尽力している。 公式instagram:https://www.instagram.com/fukuinaika.biyou.eiyou/ 公式HP:https://www.seijinkai-clinic.com/ |
・食物繊維 | e-ヘルスネット 厚生労働省(令和5年9月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-016.html
・食物繊維の必要性と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年9月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
・野菜、食べていますか? | e-ヘルスネット(厚生労働省)(令和5年9月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-03-015.html
・文部科学省 日本食品標準成分表(八訂)食品成分データベース https://fooddb.mext.go.jp/
・栄養素等の目安量等_日本人の食事摂取基準(2020年版)より抜粋https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586559.pdf