「イヌリン」というと、サプリメントや健康食品のイメージを持つ方が多いかもしれません。
そのように精製・加工されることもありますが、イヌリンは私たちが普段食べている身近な食品にも含まれており、日本だけでなく世界中で昔から知らず知らずのうちに摂取されています。
この記事では、イヌリンが多く含まれている野菜や1日にとりたい量について詳しく解説いたします。
忙しくて料理する時間がないという方には、イヌリンが使われた市販品についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
イヌリンとは
イヌリンとは、水溶性食物繊維の一種で、自然界ではチコリの根や菊芋、ごぼう等に多く含まれています。
そのため、人が食していた歴史は古く、古代ギリシャでもイヌリンを多く含む野菜であるチコリの健康効果が記されているなど、昔から体に良いことで知られています。
健康に良い栄養成分としても知られているイヌリンですが、業務用に使われるイヌリンの場合、種類によっては甘みがあり砂糖の代替として使われたり、高濃度で水に溶かして冷やすとなめらかなゲル状になり、脂肪の代替として使われるなど食品加工の分野でも広く利用されています。
イヌリンが多く含まれている食べ物
イヌリンは多くの植物が根や茎などに貯蔵栄養素として生成する多糖類です。
チコリの根や菊芋に含まれるイヌリンが有名ですが、私たちが普段からとっているごぼうやニンニク、玉ねぎにも含まれています。
チコリ・菊芋
100gあたりのイヌリン含有量が最も多いのはチコリの根や菊芋です。
文献や分析調査※によるとチコリの根や菊芋には、15~20%、3~10%程度のイヌリンが含有しているといわれます。
住んでいる地域によっては家庭料理に出てくることが少ないため、食べたことがない人もいるのではないでしょうか。
<チコリ>
原産は諸説ありますが、ヨーロッパ・地中海沿岸から中央アジアにかけてと言われています。
海外では古くから根を焙煎して代替コーヒーとして利用されていましたが、日本ではあまり利用されていなかったようです。
最近になり、日本でもサラダやオードブルなどに使われる食材として薄黄色から薄緑色のチコリの葉(芽)をスーパーなどで見かけるようになりました。これは、収穫したチコリの根を、光を遮ったところで軟化栽培(軟白栽培)して育てたものです。チコリの根にはイヌリンが多く含まれますが、残念ながらこのチコリの葉にはほとんどイヌリンは含まれません。
日本でも、埼玉県や千葉県、愛媛県、北海道などで栽培されています。
<菊芋>
原産は北アメリカで、アメリカ先住民の貴重な食料だったといわれています。
日本には、江戸時代末期に飼料用作物として導入されました。
シャキシャキした食感と、ごぼうのような香りで、スープや煮込み料理、サラダなどさまざまな料理に利用されています。
日本でも多くの地域で栽培されていますが、地元食材として利用されることが多く、全国のスーパーで見かけることは少ないようです。
身近な野菜
チコリや菊芋には劣りますが、普段私たちが食べている身近な野菜にもイヌリンが含まれており、文献や分析調査※によると、ニンニクに9~23%、ごぼうに3~7%、玉ねぎに1~8%含有しているといわれています。
普段私たちが何気なく食べている野菜にも、イヌリンが含まれているのです。
これらの野菜は食物繊維に限らず、健康効果が高い野菜としても知られています。
※Clinical Reviews in Food Science and Nutrition 1995; 35(6): 525-552、青森県による調査(https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/shoko/sozoka/files/inuringaiyou.pdf)
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の違い
食物繊維は、人の消化酵素で消化できない難消化性の食品と定義されています。
食物繊維は野菜にも多く含まれていますが、穀物、きのこ、海藻、果物などさまざまな食品に含まれており、その健康効果から5大栄養素(糖質、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)に次ぐ第6の栄養素と呼ばれています。
食物繊維の種類
食物繊維は大きく、水に溶けやすい水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維に分類されます。
水溶性食物繊維は、イヌリンのほか、大麦などに含まれるβ-グルカン、果物に多いペクチンや海藻類に多いアルギン酸、フコイダン、寒天の主成分であるアガロースなどさまざまな種類があります。
食品素材としてよく利用される難消化性デキストリンも水溶性食物繊維に分類されます。
<水溶性食物繊維が多く含まれている食品>
大麦などの穀物、海藻や果物、野菜の中でもネバネバしたもの
不溶性食物繊維は、植物の細胞壁を構成するセルロース、ヘミセルロース、リグニン、エビやカニ類の外骨格成分であるキチン、キトサンがあります。
セルロースは植物の細胞壁の主成分で、野菜や穀類の外皮に多く含まれています。
<不溶性食物繊維が多く含まれている食品>
玄米や全粒粉などの穀物、きのこ、豆、根菜やかたい繊維質の野菜
食物繊維の効果
①整腸作用
それぞれ働きは違いますが、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維共に腸内環境を良好に保つ役割があります。
水溶性食物繊維の多くは、腸内で善玉菌のエサとなり善玉菌を増やし、活性化させるのに役立ちます。
腸内環境改善には、腸内に住んでいるビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が占める割合を増やすことが重要ですので、善玉菌を含む食品を摂取すると同時に、エサとなる水溶性食物繊維やオリゴ糖をとることが大切です。
不溶性食物繊維は、水を含むと膨らむ性質があるため腸内で膨張し、腸壁を刺激することで腸の蠕動運動を促し便秘の改善に役立ちます。
また、免疫システムを担う免疫細胞の約7割は、腸に存在しているといわれています。腸内環境の改善はお腹の調子を整えるだけでなく、免疫力アップにも効果的です。
②生活習慣病の予防
水溶性食物繊維は、腸の中を移動する際に脂質やコレステロール、糖、ナトリウムなどを吸着する性質があります。
これらの栄養素をとりすぎてしまうと肥満や脂質異常症、高血圧、動脈硬化を起こしやすくなり生活習慣病のリスクが高まります。
生活習慣病予防には、水溶性食物繊維をしっかりととってバランスを整えることが大切です。
③血糖値上昇抑制作用
食べ物を食べると血糖値が上昇し、インスリンというホルモンが作られます。食後に血糖値が上昇することは自然な反応ですが、血糖値が急激に上がるとインスリンが過剰に生成され、糖を脂肪として体に蓄積してしまうため、体脂肪の増加につながります。
食物繊維には、血糖値の上昇を緩やかにする効果があります。
特に効果が高いのは水溶性食物繊維で、水を含むと粘性を持ち、消化管の中を食べ物がゆっくりと進むため、消化・吸収も緩やかになります。
④食べ過ぎ防止
食物繊維の豊富なものはかさがあり、満腹感を得やすいため食べ過ぎを防いでくれます。
また、よく噛まないと食べられないものが多く、咀嚼回数が増えることも食べ過ぎ防止につながります。
食事をすると血液中のブドウ糖濃度が上昇することで満腹中枢が反応し、満腹感を知らせますが、早食いの場合は満腹感が得られる前にたくさん食べてしまい、食べ過ぎてしまうため、よく噛むことが重要です。
とりたいイヌリンの量
食物繊維は水溶性・不溶性の総量として目標量が設けられています。
イヌリンは水溶性食物繊維ですので、この目標量を参考に見ていきましょう。
食物繊維の目標摂取量
食物繊維は1日にとりたい目標量が設定されており、18歳~64歳で男性21g/日以上、女性18g/日以上です。
食物繊維の摂取量は、さまざまな生活習慣病の発症率や死亡率との関連が報告されています。
代表的なものとしては、総死亡率や2型糖尿病の発症、大腸がんの発症、心筋梗塞の発症、脳卒中の発症などです。
これらの報告はすべて、食物繊維の摂取量が多いほど発症率や死亡率が低くなる傾向があります。
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
日本人は食物繊維の摂取量が少ない
1950年頃の日本人の食物繊維平均摂取量は1日20gを超えていたという報告がありますが、最近では平均で1日16~17g程度です。
昔ながらの日本食は、食物繊維の豊富な穀類や豆類、根菜等を豊富に使用していますが、食事の内容が変化しており、現代の食事では食物繊維が不足しやすいといわれています。
食物繊維の多い食材を積極的に取り入れる、主食を大麦ご飯や雑穀類に変えるなど食物繊維の摂取量をアップするように意識しましょう。
水溶性食物繊維を意識しよう
食物繊維の中でも、水溶性食物繊維が不足している方が多いため、意識してとるようにしましょう。
厚生労働省が行っている令和元年国民健康・栄養調査の結果を参考に見てみると、以下のようになります。
【男性の食物繊維摂取量の中央値(g/日)】
20~29歳 | 30~39歳 | 40~49歳 | 50~59歳 | 60~69歳 | 70~79歳 | 80歳以上 | |
総量 | 16.4 | 17.7 | 17.4 | 18.7 | 19.8 | 20.9 | 19.3 |
水溶性 | 2.8 | 3.1 | 3.1 | 3.3 | 3.6 | 4.1 | 3.7 |
不溶性 | 9.2 | 10.2 | 10.2 | 11.0 | 12.3 | 12.8 | 12.2 |
【女性の食物繊維摂取量の中央値(g/日)】
20~29歳 | 30~39歳 | 40~49歳 | 50~59歳 | 60~69歳 | 70~79歳 | 80歳以上 | |
総量 | 14.0 | 15.2 | 15.5 | 16.1 | 19.1 | 19.5 | 17.2 |
水溶性 | 2.7 | 3.0 | 2.9 | 3.2 | 3.8 | 3.9 | 3.1 |
不溶性 | 8.3 | 9.1 | 9.4 | 10.0 | 12.5 | 12.6 | 10.6 |
60歳以上の女性以外は、どの年代においても食物繊維摂取目標量を下回っていること、水溶性食物繊維の摂取が少ないことがわかります。
水溶性食物繊維が含まれる食品を積極的にとりたいですね。
出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「国民健康・栄養調査 令和元年国民健康・栄養調査 年次2019年」
水溶性食物繊維を手軽に摂取!イヌリンの種類と扱い方
イヌリンは私たちが普段食べている食品にも含まれている水溶性食物繊維です。
食事からもとることができますが、不足を感じる場合にはイヌリンを抽出した粉末タイプのサプリメントを利用するのも良いでしょう。
原料・製法による違い
イヌリンは原料・製法によって味が異なります。
製法は大きく分けて2つあり、「植物から抽出する方法」と「人工的に合成する方法」です。
「植物から抽出する方法」は、チコリの根や菊芋などの野菜や穀物からイヌリンを抽出する方法で、「人工的に合成する方法」は砂糖を原料に酵素を利用して加工する方法です。なお、菊芋由来のイヌリンの中には、抽出せずに、菊芋をそのまま乾燥させ粉末化させたものもあります。これらは不純物の量や製造方法の違いにより、味や風味が若干異なります。
水に溶けやすい
イヌリンは比較的水に溶けやすいため、普段飲んでいる飲み物やヨーグルトに入れることができます。
市販されているイヌリンにはほのかな甘みがあるため、砂糖の代用として入れるのもおすすめ。
毎日続けるためには、習慣的に飲んでいるものや食べているものに加えることが長く続けるポイントです。
イヌリンは、冷たい飲み物や温かい飲み物に手軽に加えることができます。
加熱に強い
イヌリンは加熱に強いため、さまざまな料理に使用できます。
ハンバーグや卵焼きなどのメニューに加えるのも良いですし、より手軽に料理に使いたい場合はご飯を炊くときに入れる、普段の味噌汁やスープに入れるなどの使い方もできます。
これなら野菜が苦手な方や、食べる時間がないといった方でも気軽に食物繊維が増やせますね。
まとめ
イヌリンは私たちが普段食べている食品にも含まれている水溶性食物繊維です。
チコリの根や菊芋に多く含まれており、身近な野菜ではニンニク、ごぼう、玉ねぎなどを通して人類は長い歴史を通して摂取してきました。
食物繊維の摂取目標量を参考にすると、18歳~64歳で男性21g/日以上、女性18g/日以上の食物繊維をとるのが良いとされています。これは現実的な目標であり、、本来は1日24g以上を目指すと良いと言われています。積極的にとることが推奨されています。
特に水溶性食物繊維は、現代の食事で不足しやすい栄養素であるため、意識してとっていきましょう。
水溶性食物繊維であるイヌリンは、水に溶けやすく加熱にも強いためさまざまな料理に活用できることから手軽に食物繊維を摂りたい場合におすすめです。
忙しい方や、野菜が苦手な方は、サプリメントなどうまく取り入れ、自分に合った方法を試してみましょう。
福井 美典 /医師(糖尿病専門医・抗加齢医学専門医・救急科専門医・総合内科専門医・栄養療法医・美容皮膚科医)
糖尿病内科・栄養療法・美容皮膚科に従事。
分子栄養学に基づき、不足栄養素を補うことで、 からだの細胞を活性化させる栄養療法を取り入れている。 糖尿病診療においては、からだにやさしい血糖値コントロールを基本に、低糖質・高たんぱく質の食事の大切さを、臨床で自ら栄養指導をしている。 美容皮膚科診療においては、美容施術のみならず、栄養療法を基本としたインナーケアにも尽力している。 公式instagram:https://www.instagram.com/fukuinaika.biyou.eiyou/ 公式HP:https://www.seijinkai-clinic.com/ |
・食物繊維 | e-ヘルスネット 厚生労働省(令和5年9月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-016.html
・食物繊維の必要性と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年9月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
・国民健康・栄養調査 令和元年国民健康・栄養調査 年次 2019年https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450171&tstat=000001041744&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000001148507&tclass2val=0
・栄養素等の目安量等_日本人の食事摂取基準(2020年版)より抜粋https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586559.pdf
・Clinical Reviews in Food Science and Nutrition 1995; 35(6): 525-552
青森県による調査(https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/shoko/sozoka/files/inuringaiyou.pdf)