健康と美容を考えるにあたって、腸内環境を整えることは欠かせません。
その腸内環境を整えることを「腸活」といいます。
便秘に悩んでいる人はもちろん、普段は排便に問題のない人でも腸活をすることで、より良い自分に出会えるかもしれません。
この記事では、腸活の基本的なことから、美容・健康にどんなメリットがあるのか、正しく行うためのポイントについてお伝えします。
腸活とは?腸活のキホン
腸活とは、腸内環境を整えるための取り組みを指します。
腸内環境を整えるためには、腸内細菌のバランスを良好に保つことが重要です。1回だけ行うというよりも、習慣にして続ける必要があります。
腸活は、腸そのものだけでなく全身に様々な良い変化をもたらすことから、健康意識の高い人々に注目されて広く知られるようになりました。
腸活について深く知るために、まずは腸のことを知っておきましょう。
腸の役割を知ろう
腸の役割は、大きく3つに分けられます。
①食べたものを消化し栄養を吸収する
口から入った食べ物は食道を通り、胃で一旦溜め込まれて消化液の作用を受けます。続く小腸で、さらに食べ物を細かくするとともに栄養を吸収します。
②水分を吸収し便を作る
小腸で栄養を吸収されたあとは、食べ物のカスが残ります。続く大腸では、その残りカスから水分を吸収し、便を作ります。
液状から粥状、最終的には固形となり便として排出されます。
一般的に大腸の通過時間が長いほど、水分が吸収され硬い便となっていきます。
③外からの病原体から身を守る
食べ物と一緒に、細菌やウイルスなどの病原体もやってきます。そのため、腸には体にとって危険なものを侵入させない働きがあります。
体の免疫細胞の半分以上は腸管に存在するともいわれ、腸は免疫の重要な役割を担っています。
腸と脳の深い関係
腸は消化管として消化・吸収を行うほか、免疫にも関与していますが、腸内細菌が脳の発達や行動にも関係していることが明らかにされています。
マウスを用いた実験ですが、腸内細菌を入れ替えるとマウスの行動が変わるという驚くべき結果が得られた研究があります。
活発だったり、臆病だったりというマウスの行動は遺伝子の影響だけでなく、腸内細菌の影響も受けていることを示唆するものです。
脳の機能と腸内細菌の関係は、新しい論文によって情報が更新されていますが、私たちが思っている以上に腸は心ともつながっているようです。
腸内フローラとは?
人の腸管、特に大腸には1000種類、100兆個もの腸内細菌がいます。
腸内フローラとは、腸内に住む様々な細菌たちが、同じ種類で集合体を作って生息している様子がお花畑のようだとして使われる言葉です。
腸内フローラは、胎児にはまだ存在しません。生まれてくる時に通る産道で母親の持っている細菌を体内に取り込むのがはじめとなります。その後、外界の様々な菌に触れて腸内フローラが形成されていきます。
子供の頃に定住している菌の種類が決まったあと、抗生物質の服用や食中毒などで一時的に大きく変動することはあっても、時間が経つと元に戻り、定住している菌の種類はほぼ変わらないといわれています。
また、腸内にいる細菌の種類は住んでいる場所や生活習慣によって人それぞれで、全く同じ腸内フローラを持つ人はいません。
近年の研究で、海藻を分解できる腸内細菌を持っているのは日本人だけなのでは、という報告が注目を集めました。
腸内フローラは、食生活や環境に適応するように長い時間をかけて受け継がれてきた、先祖からの贈り物なのです。
腸活で腸内フローラを整える
腸内細菌は、その種類や特徴によって、善玉菌、悪玉菌、日和見菌(ひよりみきん)の3種類に分けられ、善玉菌が優位の状態を保つことが大切です。
・善玉菌
善玉菌は、人間にとって良い物質を作り出し、腸内環境を整えてくれる菌です。
乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌などが代表的です。
・悪玉菌
悪玉菌は、体に有害な毒素を作り出し、人間の体に害を及ぼす菌です。
ウェルシュ菌、大腸菌毒性株、緑膿菌などが代表的です。
・日和見菌
善玉菌でも悪玉菌でもない菌を日和見菌(ひよりみきん)と呼びます。
腸内細菌の中で1番多いのは日和見菌で、善玉菌と悪玉菌の多い方に味方をする性質を持ちます。そのため、善玉菌優位の状態を保つと日和見菌が善玉菌の味方となり、腸内環境を整えてくれます。
善玉菌が優位の状態を保つためには、有用な菌(プロバイオティクス)を直接摂る方法、腸内にもともと存在する善玉菌を増やすために菌のエサとなる食物繊維など(プレバイオティクス)を摂る方法があります。
どちらも腸内細菌を元気にすることで、腸内でビタミン(B1・B2・B6・B12・K・ニコチン酸・葉酸)や短鎖脂肪酸の産生が活発になり、様々な効果が得られます。
健康と美容には欠かせない!腸活のメリット
腸活をすると腸だけでなく、健康、美容に様々なメリットがあります。
腸は消化・吸収を行うだけでなく、全身に影響を及ぼしているからです。
便秘の改善というイメージを持たれることも多いですが、それだけにとどまらず、私たちの生活に大きく関わっています。
健康編
①排便コントロールのサポート
腸内環境を整えると便秘、下痢などを起こしにくくなります。
便秘とは、便が大腸に停滞してしまったり、便が十分な量が出なかったりする状態をいいますが、悪玉菌が増えさらに腸内環境が悪化する原因になります。
腸内の善玉菌を増やすことで、排便コントロールをサポートします。
②生活習慣病に関与
腸内細菌によって作られる短鎖脂肪酸は、様々な疾病の改善に役立つことが研究を通して明らかになってきました。
短鎖脂肪酸とは、酪酸・酢酸・プロピオン酸に代表される脂肪酸ですが、食事として摂った食物繊維が大腸内の腸内細菌によって分解され、発酵されることによって作られます。
短鎖脂肪酸は腸管上皮細胞のエネルギー源となるほか、様々な疾病とのつながりも明らかにされています。
④免疫力のサポート
腸を整えることは、免疫力をサポートすることにつながります。
腸には外敵から身を守る役目があり、腸管には体の免疫細胞の半分以上が存在しています。
腸内環境が良いと、腸管に住む免疫細胞を活性化することができるため、病原体に対する反応も良くなります。
⑤気持ちの安定
幸せホルモンともいわれるセロトニンは、食物中のトリプトファンを体内で合成して作られます。
腸内細菌は脳内にセロトニンの前駆体を送る役割を担っているため、腸内細菌のバランスが悪ければ、いくら大量にトリプトファンを摂ってもうまく合成されません。
また、セロトニンの合成に必要なビタミンB6、ナイアシン、葉酸を合成しているのも腸内細菌です。
腸内環境を整えることは、幸せホルモンの合成に密接に関わっています。
美容編
① 美肌を保てる
腸内環境を良好に保つことは、肌の状態に影響します。
便秘の時、肌のコンディションが悪くなりなすいと感じることはありませんか?
悪玉菌が増えてしまうと腸内で有害なガスが発生し、それが体内に吸収され、肌トラブルを起こしやすくなるからです。
また、美肌に欠かせないビタミンB群は、腸内細菌からも合成されています。
② エクオールの生成
肌を若々しく見せることや、女性特有のゆらぎ期対策として知られるエクオールは、大豆イソフラボンが腸内細菌によって代謝され作られる成分です。
エクオールを作る腸内細菌を持っているのは日本人の約50%で、大豆イソフラボンを摂取しても、すべての人がエクオールを作れるわけではありませんが、エクオールを作る腸内細菌を持っていても、腸内環境が悪ければ十分に産生されません。
大豆イソフラボンの効果を十分に得るためには、腸内環境を整えることが大切なのです。
腸活を正しく行うためのポイント
腸活をより効果的に行うには、正しい方法で行うことが大切です。
食事はもちろんですが、運動やストレス管理も行っていきましょう。
食物繊維を豊富に含む食品を摂取する
食物繊維は、食べ物の中に含まれており、人の消化酵素で消化できない物質です。
以前はエネルギーにならないことから残りカスとして扱われていましたが、研究が進み、腸内細菌がエサとすることで人にとって有用な短鎖脂肪酸などを作り出すことが発見され、今では第6の栄養素とも呼ばれています。
食物繊維は、大きく分けて水溶性の食物繊維と不溶性の食物繊維があります。
どちらも腸に良い働きをしますが、それぞれ働きが異なります。
・水溶性食物繊維
主な働き:腸の善玉菌のエサになる
果物、海藻類、大麦などの穀物に多く含まれている
・不溶性食物繊維
主な働き:便の材料になって体積を増やし、腸の蠕動運動を促す
根菜類、キノコ類、繊維の硬い野菜(ごぼう、たけのこなど)、豆類などに多く含まれている
どちらもバランス良く、食事に取り入れることが大切です。
・主食は大事な食物繊維源
主食は太りやすい、というイメージを持っている人もいるのではないでしょうか?
たしかに糖質が多いので、大量に摂りすぎれば太りやすくなりますが、大事な食物繊維源であり主食を抜いておかずだけ、というのはあまりおすすめできません。
特に大麦や玄米、全粒粉など精製度の低い穀物は、食物繊維をはじめ、ビタミンやミネラルを多く含むため、忙しい方でも効率よく栄養を摂取することができる点もメリットです。
腸内環境に良い菌を摂取する
腸内の善玉菌の割合を増やす方法として、生きた善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌を含む食品を摂ることが挙げられます。
善玉菌を含む食品としては、ヨーグルトや乳酸菌飲料・納豆・糠漬けなどの発酵食品が代表的です。
・乳酸菌とは
発酵によって、糖から乳酸を作ることができる微生物の総称です。
・ビフィズス菌とは
乳酸菌の一種で、主に人や動物の腸内に存在します。
他の乳酸菌と違い酸素を嫌う性質を持つことから酸素の少ない環境で生息し、乳酸だけでなく酢酸も産生するため、乳酸菌とは別の種類に分類されることもあります。
ビフィズス菌は一般的に酸に弱いため、口から摂っても生きたまま腸まで届けるのが難しく色々な研究が進んでいるところです。
人によって腸内環境が異なるため、腸内環境の改善に結びつけるには、自分に合った菌を摂ることも重要です。
ヨーグルトを食べる場合も、メーカーによって入っている菌が違い、それに伴って効果は変わります。継続しても効果が見られない場合は、種類を変えてみるのも1つの方法です。
ヨーグルトばかりではなく、その他の発酵食品や食物繊維もしっかり摂りましょう。
水分をしっかりとる
水分を十分に摂取することで腸の動きを活発にしたり、便をやわらかくしたりすることにつながります。
便の約80%は水分でできており、脱水症状がある場合は便秘になりやすいからです。
しかし、水分をある程度摂っている人が、さらに水分摂取をしたからといっても便秘の改善は見込めません。つまり、水分摂取はすべての人にとって便秘改善になるわけではありません。
また、不溶性食物繊維は水分を含んで便のかさを増す性質があることから、不溶性食物繊維を摂る時は水分を一緒に摂ることが推奨されています。
健康のために1日に摂りたい水分量は、厚生労働省が推進・発信している情報を参考にすると、飲み水として最低でも1.2Lです。
アルコールやコーヒー、緑茶などのカフェインを含む飲み物は利尿作用があるため、水分摂取を目的とした場合は向きません。水を飲む習慣をつけましょう。
運動を取り入れる
腸活で運動を取り入れるメリットは、大きく3つあります。
①腸管の動きを活発にする
運動をすることで、腸の蠕動運動が活発になり、便が出やすくなります。
②腹筋をつけて排便をスムーズに行えるようにする
特に年齢を重ねるにつれて筋肉が落ち、腹筋が少ないためにうまく便を出せず便秘になってしまうケースは多くあります。
③運動することで自律神経が整う
自律神経には、活動している時に優位になる「交感神経」と、リラックスしている時に優位になる「副交感神経」があります。
腸の動きをコントロールしているのは自律神経であり、腸の蠕動運動は交感神経が優勢の場合は停滞し、副交感神経が優勢の場合は活発になります。
適度な運動は、リフレッシュ効果があり自律神経を整えて腸の活動を助けます。
ストレスを減らす
不安や緊張などのストレスは、腸内細菌のバランスを崩す原因となることがわかっています。
ストレスを受けた時に消化管の局所でカテコラミンという物質が放出され、カテコラミンにさらされた大腸菌は病原性が高まったとの研究結果があります。
「緊張してお腹が痛くなる」という経験はありませんか?これは脳で感じたストレスが顕著に腸に出ているサインです。
ストレスを全く感じずに生活するのは難しいと思いますが、原因を追究し、改善できることは見直してみましょう。
腸活は継続することが大切
腸活を始める前の腸の状況にもよるので、腸活を始めたあと、効果が表れる時期は人それぞれです。
腸内環境を整えるには、善玉菌が優勢な状態を保ち続けなければいけません。そのためには、毎日少しずつでも腸に良いことを継続しましょう。
少なくとも2週間は継続して、その効果を見ることをおすすめします。
ヨーグルト菌は腸に住み着かない?
ヨーグルトを食べたら、中に入っている菌は腸に住み着くでしょうか。
答えは、NO。ほとんどの場合、ヨーグルトに含まれる菌は腸に住み着きません。ヨーグルトに限らず、どのような菌も同じことがいえます。
腸に良い菌を毎日食べ続けている間は便から菌が検出されますが、食べるのをやめると数日で検出されなくなるそうです。
つまり、定住しなくても食べ続けている限りは、腸内フローラの一員として働いてくれる可能性があります。
1回食べただけで菌が住み着くことはありませんが、習慣的に取り入れていくことが大切なのです。
腸に悪い習慣
腸に良い習慣を取り入れるのと同じくらい重要なのが、腸に悪い習慣をやめることです。
どんなに腸に良い食事や運動を行っても、悪い習慣を日常的に行っていると効果は半減してしまうからです。
当てはまるものがある場合は、色々なものを取り入れる前に腸に悪い習慣をやめることも大切です。
・腸に悪い習慣の例
脂質の多い食事に偏る
脂質の摂りすぎは悪玉菌を増やしやすく、腸内のバランスを崩しやすくします。
睡眠不足
睡眠不足は自律神経が乱れる原因となり、腸の動きを乱れやすくします。
眠っている間は副交感神経が優勢になるため、睡眠時間が足りていないと交感神経の影響が強くなり、腸の蠕動運動を停滞させるからです。
まとめ|今すぐ腸活を取り入れよう
健康と美容につながる「腸活」について、ご紹介してきました。
腸は消化、吸収、免疫など体にとって重要な役割を担っており、腸内環境を整えることは様々なメリットが期待できます。
腸内環境を整えるためには、腸内フローラの善玉菌の割合を適切に保つことが重要であり、善玉菌の代表とされる乳酸菌やビフィズス菌を摂るほか、それらの菌のエサになる食物繊維やオリゴ糖を摂ることが大切です。
また、腸に良い習慣を行うことと同時に、腸に悪い習慣をやめていくことが腸活を成功させる近道となります。
様々なメリットが期待できる腸活、ぜひ日々の生活に取り入れてみてください。
福井 美典 /医師(糖尿病専門医・抗加齢医学専門医・救急科専門医・総合内科専門医・栄養療法医・美容皮膚科医)
糖尿病内科・栄養療法・美容皮膚科に従事。
分子栄養学に基づき、不足栄養素を補うことで、 からだの細胞を活性化させる栄養療法を取り入れている。 糖尿病診療においては、からだにやさしい血糖値コントロールを基本に、低糖質・高たんぱく質の食事の大切さを、臨床で自ら栄養指導をしている。 美容皮膚科診療においては、美容施術のみならず、栄養療法を基本としたインナーケアにも尽力している。 公式instagram:https://www.instagram.com/fukuinaika.biyou.eiyou/ 公式HP:https://www.seijinkai-clinic.com/ |
・腸内細菌と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年4月30日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html
・食物繊維の必要性と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年4月30日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
・便秘と食習慣 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年4月30日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-010.html
・乳酸菌 | e-ヘルスネット(厚生労働省) (令和5年4月30日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-026.html
・ビフィズス菌 | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp) (令和5年4月30日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-029.html
・厚生労働省「健康のため水を飲もう」 推進委員会 (令和5年4月30日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000165091.pdf