便秘解消のイメージのある食物繊維ですが、それだけではありません。
生活習慣病の予防や免疫機能のサポート、ダイエットなど健康な生活を送るのに欠かせない様々な効果が期待できます。
この記事では、食物繊維をとるメリットと、どのくらいとると良いのかについてお伝えします。
食物繊維について、皆さんが感じやすい疑問についてもご紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
食物繊維の基本
食物繊維は、人の消化酵素で消化できない難消化性の食品と定義され、水に溶けやすい水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維に大きく分類されます。
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維は働きが異なり、どちらもバランス良く摂取することが大切です。
水溶性食物繊維とは
水溶性食物繊維は、大麦やきのこなどに含まれるβ-グルカン、ごぼうや玉ねぎに含まれるイヌリン、果物に多いペクチンや海藻類に多いアルギン酸、フコイダンなど様々な種類があります。
食品素材として加工食品によく利用される難消化性デキストリンも水溶性食物繊維に分類されます。
<含まれている食品>
大麦などの穀物、果物や海藻類、繊維のやわらかい野菜に多く含まれています。
- 穀類(特に麦類に多く含まれる)
- 果物(キウイやりんご、かんきつ類、プルーンなど)
- 野菜類(モロヘイヤやオクラなど)
- 海藻類(昆布、わかめ、もずくなど)
<働き>
主に、腸内の善玉菌のエサとなり善玉菌を増やし、腸内環境を改善します。
不溶性食物繊維とは
不溶性食物繊維は、植物の細胞壁を構成するセルロース、ヘミセルロース、リグニン、エビやカニ類の外骨格成分であるキチン、キトサンがあります。
<含まれている食品>
根菜類やきのこ類、豆類などに多く含まれています。
- 穀類(玄米や全粒粉など)
- きのこ類(しいたけ、えのき、しめじなど)
- 豆類(大豆、小豆、ひよこ豆、レンズ豆など)
- 野菜類(ごぼう、たけのこなど)
<働き>
不溶性食物繊維は主に、便の材料となってかさを増やすことで腸の蠕動運動を促す働きがあります。
食物繊維の効果
食物繊維は免疫のサポートや生活習慣病の予防、ダイエットなど様々な健康効果から、5大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)に次ぐ第6の栄養素とも呼ばれています。
便秘に良いイメージのある食物繊維ですが、その他にもたくさんの効果があり健康な生活を維持するのに欠かせません。
ここでは大きく6つのメリットについてお伝えします。
便通を改善
食物繊維の一番知られているメリットとして、便通を良くすることが挙げられます。
不溶性食物繊維は水を含むと膨らむ特徴があり、便の全体量を増やします。
全体量が増えた便は、腸壁を刺激し、腸の蠕動運動を活発にするため、便が出やすくなります。
腸内環境を整え、免疫をサポート
腸内にはたくさんの細菌が住んでいて、その数は1000種類、100兆個にもおよびます。
それらの腸内細菌達は同じ菌株で集まっており、その様子がお花畑(フローラ)のように見えることから腸内フローラとも呼ばれます。
腸内細菌は人に良い影響をもたらす乳酸菌などの善玉菌、悪い影響をもたらす大腸菌などの悪玉菌、どちらでもなく多い方の味方につく日和見菌にわけられます。
腸内環境を整えるためには善玉菌の割合を増やすことが大切で、理想的な割合は善玉菌2:日和見菌7:悪玉菌1と言われています。
水溶性食物繊維やオリゴ糖は善玉菌のエサとなることで善玉菌を増やし、短鎖脂肪酸を作り出すことで腸内環境を整えます。
腸は人体の中でも最大の免疫器官とも言われており、腸内環境を整えることは免疫をサポートすることにもつながります。
急激な血糖値上昇を抑える
食物繊維は食事と一緒にとると、血糖値の急激な上昇を緩やかにします。
食べ物を摂取すると血糖値が上がるのは自然な反応ですが、急激に上がったり、長い時間高いままになってしまったりすると血管が傷つきやすくなります。また、動脈硬化を引き起こしやすく、糖尿病など様々な病気につながる危険も。
増粘作用のある食物繊維をとると、お腹の中の食べ物の粘度が高くなり、胃から腸への移動がゆっくりになるため糖の消化・吸収が緩やかになります。
そのため血糖値が急激に上がるのを防いでくれるのです。
<ベジファーストとは>
野菜を先に食べ、たんぱく質を含むおかずを食べた後、糖質を含む主食を最後に食べることで血糖値の上がり方を緩やかにする食べ方です。
食物繊維を食前または食事と一緒にとる必要があり、食後にとるよりも効果が得られやすい方法です。
生活習慣病の予防
食物繊維の中でも主に水溶性食物繊維は、水に溶けるとネバネバとした形状になり食べ物が移動するスピードを緩やかにする働きがあります。
水溶性食物繊維は腸の中を移動する際に、脂質やコレステロール、ナトリウムを吸着し便と一緒に排泄することで、良好なバランスを保ちます。
これらの栄養素はとりすぎてしまうと、肥満や脂質異常症(高脂血症)、動脈硬化、高血圧などの生活習慣病が引き起こされてしまうため、注意が必要です。
よく噛む習慣がつきやすい
食物繊維の多い食品は、よく噛まないと食べられない食品が多いため、食物繊維の多く含まれている食事をとるとよく噛む習慣がつきます。
特に不溶性食物繊維を含むものはよく噛んで食べるものが多いでしょう。
よく噛んで食べることで得られるメリットは大きく、
- 早食いを防止して満足感が得られやすくなり、ダイエットにつながる
- ホルモン分泌が高まり食欲が抑えられる
- ゆっくり食事を食べるようになり薄味、適量で満足できる
- あごの発育や、むし歯の予防が期待できる
などがあります。
近年の研究によると、食べる速さと体格指数(BMI)には関連があり、早食いの人は現在のBMIが高い傾向があることがわかりました。
食事の満足感が得られる
噛むことで満足感が上がることに加えて、野菜や果物、きのこ類などはかさがあり、比較的低エネルギーなため、食事の量を増やすことができます。
例えば、キャベツ1個分(中サイズ)のエネルギーは235kcalです。
キャベツ1個分はご飯1杯(150g)とほぼ同じカロリーで、キャベツの方が量が多いことがわかります。
ダイエットのために食事量を減らすより、食事量は変えずに内容を低カロリーのものに変えた方が満足感を得られやすくなります。
とりたい食物繊維の量の目安は?
厚生労働省が5年ごとに作成する「日本人の食事摂取基準」で、摂取したい食物繊維の目標量が定められています。
年齢、性別によって若干目標量が異なりますので自分に合った量を目指しましょう。
食物繊維の目標摂取量
厚生労働省の日本人の食事摂取基準2020を参考にすると、食物繊維の目標摂取量は18~64歳男性で約21g/日以上、女性で約18g/日以上です。
【食物繊維の食事摂取基準(g/日)】
性別 | 男性 | 女性 |
年齢等 | 目標量 | 目標量 |
18~29歳 | 21以上 | 18以上 |
30~49歳 | 21以上 | 18以上 |
50~64歳 | 21以上 | 18以上 |
65~74歳 | 20以上 | 17以上 |
75歳以上 | 20以上 | 17以上 |
妊婦・授乳婦 | ‐ | 18以上 |
※日本人の食事摂取基準2020より抜粋
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020 年版)1―4 炭水化物」
海外の研究から考えられる食物繊維の理想的な目標量は、成人で24g/日以上とも言われています。日本人が実際摂取できている食物繊維の量は、目標量を大きく下回っていることから、実現可能な量として上記の値が設定されたという背景があります。そのため、摂取基準よりも多くとっても問題ありません。
食品にするとどのくらい?
食物繊維の目標摂取量である男性で約21g以上、女性で約18g以上というのは、実際の食事量にするとどのくらいになるのでしょうか。
食事に含まれている食物繊維の量を例に挙げてみます。
- カレーライス(野菜入りポークカレー ご飯260g、総重量676g 859kcal)の食物繊維量は4.7g
- 肉野菜炒め定食(ご飯200g味噌汁付 総重量653.5g 856kcal)の食物繊維量は5.5g
- サンドイッチ(ハム野菜卵サラダ 総重量113.6g 314kcal)の食物繊維量は0.85g
- 昆布おにぎり(1個 総重量121.5g 194kcal )の食物繊維量は1.37g
- 野菜サラダ(小皿1皿 総重量62g 10kcal)の食物繊維量は0.72g
※カロリーSlism(スリズム)栄養計算参考
野菜を食べていると思っていても、1日18~21gの食物繊維をとるのは難しいことがわかります。
特に外食では選ぶメニューによって食物繊維がほとんど入っていないものもありますので、サラダや小鉢を追加するのも良いでしょう。
色々な食品からとろう
同じ食品ばかりをとると、栄養素が偏ってしまうことがあるため色々な食品をとるように心がけましょう。
食物繊維が多く含まれている食品でも、単一の食品ばかりでは水溶性食物繊維と不溶性食物繊維のバランスが悪かったり、他に含まれている栄養素が同じになってしまったりと、不足する栄養素が出てきます。
食物繊維は野菜に多いイメージを持たれやすいですが、穀類やきのこ類、海藻類、豆類などにも多く含まれ、それらの摂取を増やすとぐっと摂取量がアップします。
食物繊維を多く含む食品
食物繊維は肉や魚などの動物性食品にはほとんど含まれておらず(甲殻類を除く)、植物性の食品に多く含まれています。
具体的には野菜、果物、穀物、きのこ、海藻、種実、豆類などに多く含まれていますので、色々な食品からとることを意識しましょう。
野菜350g果物200gはとりたい
国では生活習慣病予防のために、1日に野菜350g、果物200gをとることを推奨しています。
野菜350gをとっているかは、食事の1食あたりに両手に1杯程度の野菜をとれているかどうかが目安です。
加熱した野菜はかさが減るため、片手にのる程度になります。
野菜の種類によっても差が出ますが、まずはこの量をとれているかを確認してみましょう。
果物は果糖が多く甘いため、とり過ぎには注意が必要ですが、食物繊維の他ビタミン・ミネラルを多く含み200g程度の摂取が推奨されています。
きのこ・海藻類でさらにアップ
野菜や果物の他に、取り入れやすい食物繊維を多く含む食品としてきのこや海藻類があります。
どんな料理にも合わせやすく、比較的調理も簡単なため積極的に取り入れたい食材です。
野菜サラダや味噌汁など、いつもの献立にぜひ加えてみてください。
主食は大事な食物繊維源
厳格な糖質制限をしている場合を除いて、1日の中で必ず出てくる主食は大事な食物繊維源です。
いつもの主食を大麦ご飯や雑穀入りのパン、全粒粉パスタなどに変えるだけでも、大きく食物繊維摂取量を増やすことができます。
主食を変えて食物繊維量を増やす方法は、献立を考える必要がないのが嬉しいポイントですので、忙しい方や気軽に始めたい方にもおすすめです。
食物繊維の疑問にお答え
「食物繊維を食べると太る?」「とり過ぎの心配は?」「風邪の時に食物繊維をとっても大丈夫?」など、食物繊維を積極的にとろうとした時に、皆さんが感じやすい疑問について解説します。
とりすぎると太る?
食物繊維はほとんどエネルギーとして利用されないため、太りやすくなる心配はありません。
炭水化物は糖質と食物繊維を合わせた総称ですが、糖質は1gで約4kcalのエネルギーを産生するのに対して、食物繊維は腸内細菌の発酵分解によってエネルギーを産生し、0~2kcal程度と考えられています。
どんなものでも極端に食べ過ぎれば太る可能性はありますが、一般的な食事量の場合、過度に心配する必要はないでしょう。
過剰摂取の影響は?
健康な人では、サプリメント等を利用した場合を除いて、食事だけでとり過ぎになる心配はあまりありません。
食事だけで十分な食物繊維量を摂取するのは難しく、実際に目標量を摂取している人は少ないのが実態です。
また、海外の基準を参考にするとさらに多くの摂取量が推奨されており、あまりとり過ぎを心配する必要はないと言われています。
しかしながら、腸が弱い方や腸の蠕動運動が低下している方、サプリメントを利用している方は便秘や下痢を引き起こす可能性があるため注意しましょう。
風邪の時にとってもいい?
風邪など体調の優れない時は腸の動きが悪くなっている場合が多いため、食物繊維を積極的に摂取するのはおすすめできません。
まずは水分をしっかりととって、胃腸を休めるためにお粥やスープなど消化の良いものを意識します。
症状が改善してきたら、徐々に野菜や果物を増やしていきましょう。
まとめ
食物繊維は便秘に良いだけでなく、血糖値の急激な上昇を緩やかにする、生活習慣病を予防するなどの働きがあります。
また、食物繊維の多い食事はよく噛む習慣がつきやすく、早食い防止や満足感アップにつながりダイエット効果が期待できます。
食物繊維は野菜の他にも果物やきのこ、海藻、穀類、豆類など様々な食品に含まれていますので、様々な食品から効率的にとるのがおすすめです。
食物繊維の目標摂取量は18~64歳男性で約21g/日以上、女性で約18g/日以上です。目標量を摂取できている人は少ないため、まずは1日3~4gプラスしてとることを目指しましょう。
福井 美典 /医師(糖尿病専門医・抗加齢医学専門医・救急科専門医・総合内科専門医・栄養療法医・美容皮膚科医)
糖尿病内科・栄養療法・美容皮膚科に従事。
分子栄養学に基づき、不足栄養素を補うことで、 からだの細胞を活性化させる栄養療法を取り入れている。 糖尿病診療においては、からだにやさしい血糖値コントロールを基本に、低糖質・高たんぱく質の食事の大切さを、臨床で自ら栄養指導をしている。 美容皮膚科診療においては、美容施術のみならず、栄養療法を基本としたインナーケアにも尽力している。 公式instagram:https://www.instagram.com/fukuinaika.biyou.eiyou/ 公式HP:https://www.seijinkai-clinic.com/ |
・食物繊維 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年6月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-016.html
・食物繊維の必要性と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年6月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
・腸内細菌と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年6月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-003.html
・栄養素等の目安量等_日本人の食事摂取基準_炭水化物(2020年版)https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586559.pdf
・ゆっくりよく噛んで食べていますか?:農林水産省 (maff.go.jp) (令和5年6月1日閲覧)https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/plan/4_plan/togo/html/part6.html