みなさん、1日に必要な食物繊維量をとれていますか?
食物繊維は目標量を摂取できている人が少なく、意識していないと十分な量をとりにくい栄養素です。
自分の食べている食事の栄養素をしっかりと把握するのは難しいですが、とりたい目標量の目安だけでも知っておくと意識が変わるのではないでしょうか。
この記事では、食物繊維の目標摂取量と、その量を食事に置き換えたときの具体的な目安、手軽に摂取するための献立ポイントについてお伝えします。
食物繊維を十分にとれているか心配な方や、十分にとるのが難しいと感じている方はぜひ参考にしてください。
食物繊維の基本
食物繊維は、人の消化酵素で消化できない難消化性の食品と定義されています。
炭水化物は糖質と食物繊維を合わせたもののことを指しますが、糖質がエネルギー源であるのに対して食物繊維はエネルギーをほとんど産生せず、昔は重要視されていませんでした。
しかし、近年さまざまな健康効果が研究によって報告され、今では5大栄養素(炭水化物・たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラル)に次ぐ第6の栄養素とも呼ばれ注目を集めています。
食物繊維とは
食物繊維は大きく、水に溶けやすい「水溶性食物繊維」と、水に溶けにくい「不溶性食物繊維」に分けられます。
それぞれ性質や働きが異なり、水溶性食物繊維は水を含んで糖や脂質、ナトリウムなど一緒にとるものの吸収速度を遅らせたり、腸内の善玉菌のエサとなり腸内環境の改善を助けたりする働きがあります。
一方、不溶性食物繊維は、便の材料となって体積を増やし、腸壁を刺激することで腸の蠕動運動を促す働きがあります。
健康を維持するためには、どちらもバランスよく摂取することが大切です。
食物繊維の多い食品
水溶性食物繊維は、大麦などの穀物、果物や海藻類、ごぼうなどの根菜、ネバネバしている野菜に多く含まれています。
- 穀類(特に麦類に多く含まれる)
- 果物(キウイやりんご、かんきつ類、プルーンなど)
- 野菜類(ごぼう、モロヘイヤやオクラなど)
- 海藻類(昆布、わかめ、もずくなど)
不溶性食物繊維は、根菜類やきのこ類、野菜、豆類に多く含まれています。
食感がかたいものが多いため、食事をよく噛んで食べることにも役立ちます。
- 穀類(玄米や全粒粉など未精製のものに多く含まれる)
- きのこ類(しいたけ、えのき、しめじなど)
- 豆類(大豆、小豆、ひよこ豆、レンズ豆など)
- 野菜類(ごぼう、たけのこなど)
ごぼうは水溶性・不溶性ともに多く、うれしい食材です。
食物繊維が不足するとどうなる?
食物繊維が不足すると、腸内環境が悪化しやすくなります。
その結果、便秘や下痢になったり、食物繊維の摂取量が極端に少ないと、大腸がんなどの病気のリスクも上がるといわれています。
また、腸は免疫機能を担っている器官でもあるので、腸内環境が乱れることで免疫力の低下を招く可能性があります。
その他にも、食物繊維には、種類にもよりますが、食後の糖の吸収をゆるやかにする、血中コレステロール値を下げる、ナトリウムの排出を助けるなどの働きがあることから、食物繊維が不足すると、糖尿病や肥満、高血圧などの生活習慣病にかかるリスクが上がると言われています。
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
1日でとりたい食物繊維量
日本人の食事摂取基準(2020年版)では、食物繊維の目標量が年齢と性別によって示されており、18~64歳で男性1日約21g以上、女性1日約18g以上となっています。
しかしながら、アメリカやカナダの食事摂取基準では、成人で1日24g以上の食物繊維を摂取することが理想とされています。
日本人の実際の摂取量は、この値を大きく下回っているため実践可能な数値が設定されたという背景があります。
食物繊維に関しては、許容上限量(これ以上はとらない方がいい量)の設定はなく、目標量を上回ることを意識して問題ないでしょう。
目標摂取量
食物繊維の1日の目標摂取量は年齢、性別によって異なり、以下の通りです。
【食物繊維の食事摂取基準(g/日)】
性別 | 男性 | 女性 |
年齢等 | 目標量 | 目標量 |
18~29歳 | 21以上 | 18以上 |
30~49歳 | 21以上 | 18以上 |
50~64歳 | 21以上 | 18以上 |
65~74歳 | 20以上 | 17以上 |
75歳以上 | 20以上 | 17以上 |
妊婦・授乳婦 | ‐ |
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020」
年代によって大きく変わることなく、また妊娠・授乳婦でも特別に付加する必要はありません。
食物繊維20gってどのくらい?
普段食べている食事がどのくらい食物繊維が含まれているかを知ると、目安をつかみやすくなります。
※量は、一般的な1人前の分量で計算しています。
- 生姜焼き定食
ご飯200g、生姜焼き、キャベツの千切り、わかめの味噌汁、たくあん
→食物繊維量3.2g、エネルギー766kcal、たんぱく質29.0g、脂質26.3g
- ハム野菜卵サラダのサンドイッチ
1人前114g
→食物繊維量0.9g、エネルギー312kcal、たんぱく質12.2g、脂質21.2g
- カレーライス(サラダ付き)
ご飯200g、サラダ
→食物繊維量5.4g、エネルギー869kcal、たんぱく質21.5g、脂質26.6g
食物繊維が7g以上の献立
食物繊維を1日20g程度とるには、1食当たり6~7gの食物繊維が必要です。
食物繊維が7g以上になる献立例を見てみましょう。
※量は一般的な1人前の分量で計算しています。
- 和食献立
玄米ご飯(160g)、筑前煮、豆腐サラダ、じゃがいもと玉ねぎの味噌汁
→食物繊維8.5g、エネルギー621kcal、たんぱく質23.8g、脂質14.4g
- 洋食献立
ご飯(160g)、れんこんハンバーグ、きのこのマリネ、モロヘイヤのスープ
→食物繊維8.2g、エネルギー810kcal、たんぱく質28.7g、脂質37.0g
1食6~7gの食物繊維をとろうとすると、意識しないと難しいことがわかります。
欠食や野菜の入っていない食事が1回でもあると、その分を補うのはさらに難しくなるでしょう。
大麦、玄米などの穀類、根菜やきのこ、海藻を献立にとり入れるとぐっと食物繊維量がアップします。
食物繊維が豊富な食材を利用して、毎食しっかりととれるようにしていきましょう。
さまざまな食品からとろう
食物繊維は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があり、どちらもまんべんなく摂取するには食品を組み合わせてとる必要があります。
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」の結果を参考に、実際にはどのくらい食物繊維をとれているかを見てみると以下のようになります。
【男性の食物繊維摂取量の中央値(g/日)】
20~29歳 | 30~39歳 | 40~49歳 | 50~59歳 | 60~69歳 | 70~79歳 | 80歳以上 | |
総量 | 16.4 | 17.7 | 17.4 | 18.7 | 19.8 | 20.9 | 19.3 |
水溶性 | 2.8 | 3.1 | 3.1 | 3.3 | 3.6 | 4.1 | 3.7 |
不溶性 | 9.2 | 10.2 | 10.2 | 11.0 | 12.3 | 12.8 | 12.2 |
【女性の食物繊維摂取量の中央値(g/日)】
20~29歳 | 30~39歳 | 40~49歳 | 50~59歳 | 60~69歳 | 70~79歳 | 80歳以上 | |
総量 | 14.0 | 15.2 | 15.5 | 16.1 | 19.1 | 19.5 | 17.2 |
水溶性 | 2.7 | 3.0 | 2.9 | 3.2 | 3.8 | 3.9 | 3.1 |
不溶性 | 8.3 | 9.1 | 9.4 | 10.0 | 12.5 | 12.6 | 10.6 |
出典: 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」
60歳以上の女性以外は目標量を下回っていること、特に水溶性食物繊維が不足していることがわかります。
野菜は不溶性食物繊維が豊富なものが多いため、水溶性食物繊維の豊富な果物や海藻類、穀類などさまざまな食品をとりましょう。
簡単メニューをご紹介
食物繊維の多い食品がわかっても、毎日その食品を摂取し続けるのは難しいものです。
ここでは、シーン別に簡単に食物繊維摂取量を増やせるコツをお伝えします。
朝食編
朝は忙しくてバランスのよい食事をとる時間がないという人が、多いのではないでしょうか?
忙しくても簡単に食物繊維の摂取量をアップするには、主食の工夫や果物を取り入れることがおすすめです。
<主食で食物繊維をとれるようにする>
玄米ご飯、麦ご飯、ライ麦パン、全粒粉のパン、オートミール、グラノーラなど
- 白米(ご飯)200g:食物繊維0.6g
→ 玄米(ご飯)200g:食物繊維2.8g
麦ご飯 200g:食物繊維2.9g
- 食パン 60g(6枚切り1枚):食物繊維1.4g
→ ライ麦パン 60g:食物繊維2.8g
オートミール 80g(1カップ):食物繊維7.5g
<果物を追加する>
- キウイフルーツ(1個 可食部87g) 食物繊維2g
- バナナ(1本 可食部90g) 食物繊維0g
- りんご(1/2個 可食部127g) 食物繊維9g
- ブルーベリー(20個 40g) 食物繊維3g
- パイナップル(1/4カット 可食部151g 食物繊維3g
調理の時間がない方は、カットフルーツや冷凍フルーツなどを利用してもよいでしょう。
昼食編
昼食がコンビニや外食になりやすい方におすすめの方法は、サイドメニューに食物繊維の豊富な1品をプラスすることです。
- ひじきの煮物(小鉢1杯61g) 食物繊維3g
- きのこのマリネ(小皿1皿131g) 食物繊維9g
- ごぼうサラダ(小鉢1杯119g) 食物繊維1g
- 海藻サラダ(小皿1杯83g )食物繊維1g
- ほうれん草の胡麻和え(小鉢1杯83g) 食物繊維7g
一般的な葉物のサラダは思っているよりも、食物繊維量が少ないこともあるので注意しましょう。
夕食編
食べる時間に比較的余裕がある方の多い夕食には、食物繊維を含む食材をたっぷりと加えた鍋物やスープがおすすめです。
- きのこ鍋(鶏肉・野菜・きのこ 1人前661g) 食物繊維6g
- みぞれ鍋(鶏肉・野菜・きのこ・大根 1人前763g 食物繊維6g
- キャベツとわかめの味噌汁(1人前212g) 食物繊維6g
- けんちん汁(1杯180g) 食物繊維4g
- ミネストローネ(1杯143g) 食物繊維4g
おやつ編
おやつで食物繊維をしっかりとっておくと、次の食事の血糖値が上がりにくくなるとも言われています。
<食物繊維がしっかりとれるおやつ>
- 干し芋(1枚 40g) 食物繊維4g
- 寒天ゼリー(1人前80g) 食物繊維0g
- アーモンド(10粒12g) 食物繊維4g
- 甘栗(5個 25g) 食物繊維1g
- 茎わかめ(1パック100g)食物繊維1g
飲み物編
飲み物でも食物繊維を多く含むものがあります。小腹が空いたときにもぴったりなものをご紹介します。
- オーツミルク(コップ1杯200ml) 食物繊維4g
- アーモンドミルク(コップ1杯200ml) 食物繊維7g
- バナナ豆乳(コップ1杯200g) 食物繊維9g
- 豆乳ココア(コップ1杯198g) 食物繊維8g
手軽に食物繊維をとるための工夫
どんな栄養素も同じですが、食物繊維も、一度にたくさん食べるより1日の中でも数回に分けてこまめに摂取することが大切です。
血糖値の急上昇を抑えたり、コレステロールのバランスを保ったりする効果は毎食の食事と一緒だからこそ十分に発揮できるのです。
まずは、毎食食物繊維をとれるように心がけてみましょう。
常備菜のすすめ
食物繊維をとるために、毎食違うものを作るのは時間も労力もかかるものです。
特に忙しい人にとっては、1日3回食事作りに時間がとられてしまうと食事作りがめんどうだと感じてしまうこともあります。
そんなときには、常備菜がおすすめです。
日持ちさせるポイントは以下の3つです。
- 味付けは少し濃い目
- 保存容器は水気をしっかりととり清潔なものを使用
- とり分けるときはきれいな箸やスプーンを使用
酢には殺菌作用があるので、いろいろな野菜を酢漬けにしておくのもよいですね。
海藻・きのこを常備
野菜だけで食物繊維を増やそうと思うと、たくさんの量をとる必要がありますが、いろいろな食材を利用すると無理なくとることができます。
中でもおすすめなのは、わかめや昆布などの海藻類、しめじやえのき、しいたけなどのきのこ類です。
調理が簡単でどんな料理にも合わせやすいため、常備していろいろな献立に加えてみましょう。
食物繊維と一緒にとりたいもの
食物繊維だけをとるよりも、発酵食品や水分を一緒にとることがおすすめです。
発酵食品は食物繊維と一緒にとることで、腸内環境を整える効果を発揮しやすくなります。
また、食物繊維をとる場合は、水分を一緒にとることで便の硬さを適切に保つことができます。
発酵食品
ヨーグルトや納豆、ぬか漬けなど、発酵食品をとりましょう。
発酵食品は善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌を含んでおり、善玉菌を増やして腸内環境を良好に保つからです。
腸の中には1000種類、100兆個にも及ぶ腸内細菌が住んでおり、性質によって善玉菌、悪玉菌、多い方の味方につく日和見菌に分けられます。
理想的な腸内細菌のバランスは、
善玉菌2:日和見菌7:悪玉菌1
と言われ、善玉菌が悪玉菌より優勢な状態を保つことが大切です。
水溶性食物繊維は善玉菌のエサとなり、善玉菌を増やすのに役立ちますが、善玉菌が少ない状態でエサとなる食物繊維ばかり増やすと、処理できずにガスが溜まる原因になります。
水分をしっかりとろう
食物繊維を積極的にとるのであれば、水分摂取も一緒に行いましょう。
しっかりと水分をとることで、便が柔らかくなり排出しやすくなります。便秘解消を目的とした場合は、特に腸内環境の改善と共に水分を意識しましょう。
1日の水分摂取量が500ml以下の場合は、排便量が減少し便秘症状につながると言われています。
厚生労働省が推奨する1日の水分量は1日1.2リットルですので、まずは起床時、朝食、昼食、15時、夕食、就寝前など、タイミングを決めてしっかりととるようにしましょう。
まとめ
食物繊維はその健康効果から目標摂取量が設定されており、18歳~64歳で男性21g/日以上、女性18g/日以上です。
海外の基準を参考にすると、もう少しとりたいところであり、目標量を上回ってとっても問題なく、通常の食事では過剰摂取になりにくいと言われています。
1食当たり6~7gの食物繊維をとるには、食物繊維の豊富な食材を献立の中に入れていくと十分な量をとれるようになります。
主食の工夫や果物の追加、時間に余裕のあるときは野菜やきのこ、海藻を入れた具沢山スープなど、状況に合わせて献立に組み入れていくのがおすすめです。
食事ではなかなか食物繊維量を増やせない方は、おやつや飲み物でとるのもよいでしょう。
福井 美典 /医師(糖尿病専門医・抗加齢医学専門医・救急科専門医・総合内科専門医・栄養療法医・美容皮膚科医)
糖尿病内科・栄養療法・美容皮膚科に従事。
分子栄養学に基づき、不足栄養素を補うことで、 からだの細胞を活性化させる栄養療法を取り入れている。 糖尿病診療においては、からだにやさしい血糖値コントロールを基本に、低糖質・高たんぱく質の食事の大切さを、臨床で自ら栄養指導をしている。 美容皮膚科診療においては、美容施術のみならず、栄養療法を基本としたインナーケアにも尽力している。 公式instagram:https://www.instagram.com/fukuinaika.biyou.eiyou/ 公式HP:https://www.seijinkai-clinic.com/ |
・食物繊維 | e-ヘルスネット - 厚生労働省 (mhlw.go.jp) (令和5年6月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-016.html
・食物繊維の必要性と健康 – e-ヘルスネット – 厚生労働省 (令和5年6月1日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
・栄養素等の目安量等_日本人の食事摂取基準(2020年版)より抜粋 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586559.pdf
・令和元年国民健康・栄養調査 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450171&tstat=000001041744&cycle=7&year=20190&month=0&tclass1=000001148507&tclass2val=0