わたしたち人間の体内には、様々な種類の細菌が無数に存在しています。大腸の中に住む腸内細菌は、それぞれが種類ごとにまとまって腸内フローラと呼ばれる集団を形成しています。
腸内フローラは、人間が消化吸収できない未消化物を栄養に変換したり、腸内の免疫細胞を活性化して病原菌から身体を守ったり、わたしたちにとって重要な役割を担っています。
この記事では、大腸や腸内フローラ、腸内環境に関する基礎知識について解説します。
小腸と大腸の基礎知識
腸内フローラについて知るために、まずは小腸と大腸のはたらきをみていきましょう。
小腸の役割
小腸の主な役割は、栄養素と水分の吸収。
わたしたちが食べた食べ物はまず胃で消化されドロドロになり、6~7mもある小腸でおおよそ3~5時間かけて消化酵素と混ざり合いさらに分解され、水分とともに腸管の吸収上皮細胞から吸収されます。吸収された栄養素は、血液に乗って全身へと運ばれていきます。
大腸の役割
大腸の主な役割は、小腸で吸収しきれなかった水分の吸収と未消化物の代謝。
大腸にすみついた腸内細菌の働きによって未消化物は代謝され、残留物は便として体外へ排泄されます。大腸の長さは小腸よりも短くおよそ1.5m、未消化物はその内容によりおよそ10~40時間ほど大腸の中に留まります。
腸内フローラとは
大腸のはたらきを助け、腸内環境を整えてくれる腸内フローラは、なぜ人間の体内に存在しているのでしょうか。
腸内細菌は微生物
腸内細菌とは、一種類の細菌を表す名前ではなく、腸内に住む微生物の総称です。
微生物の歴史は、私たち人類よりはるかに長いのをご存じでしょうか。地球が誕生したのは46億年前、生命の源であるたんぱく質や核酸が現れたのが約40億年前。そこから4億年後、微生物はいまから約36億年前に誕生しました。人間は誕生してから”たった”約300万年。微生物は人間よりもはるかに以前より地球に存在しているのです。
微生物は長い長い年月をかけ、海の中、土の中、動物の体内など、地球上のいたるところに存在するようになりました。無数に存在する微生物の生命力や繁殖力には敬意を表さずにはいられませんね。
腸内細菌の種類と数
対外へ排出された便には、1g当たり約1,000億個もの腸内細菌が存在しています。大人一人あたりの腸管全体に存在する腸内細菌は、重さに換算すると最大1~1.5kgもあり、その総数は約40兆個以上に上ります。人の体を構成する細胞の数はおよそ37兆個ですから、それよりもはるかに多くの腸内細菌が腸の中に住んでいるのです。
腸管内に存在する腸内細菌の種類はおおよそ1,000種類、腸内細菌の種類は一人一人異なり、ビフィズス菌をはじめとする多くの人に共通する腸内細菌は160種程度と言われています。
最近の研究では、住んでいる地域や人種で腸内フローラのタイプが異なり、高脂肪・高タンパク質中心の食事を摂る欧米人の腸内フローラは、バクテロイデス属菌が優位な傾向があり、炭水化物や野菜を多くとる食文化の国ではプレボテラ属の腸内細菌が多いことがわかってきています。
また、腸内フローラの構成は生涯一定ではありません。例えば日本人がアメリカに移住して2~3年経つと、食生活の影響でアメリカ人の腸内フローラタイプに近づくことあるなど、腸内フローラのバランスは人種や地域より食生活が強く影響するんです。
母から子へ住み着く腸内細菌
腸内細菌はいつ体に住み着くのか?
母親の胎内は無菌状態ですから、生まれる前の赤ちゃんに腸内細菌は存在しません。赤ちゃんにとって最初の腸内細菌との出会いは分娩時。子宮から産道を通って産まれる際、母親の膣内や肛門付近の細菌と接触し、それらがまず赤ちゃんの体内に入ります。
また、父親や母親、助産師が抱き上げたタイミングなど、人の皮膚にいる常在菌との接触も、赤ちゃんの腸内フローラの形成に影響します。その後は成長とともに、外界の多くの細菌に触れながら腸内フローラが形成され、おおよそ3歳頃までには人の腸内フローラの構成は成人とほぼ同じとなり、ある程度決まるといわれています。
便で知る腸内環境の状態
腸内細菌は目には見えませんが、便を解析することで調べる方法があります。腸内細菌の種類や組成を調べ、病気に関わるような細菌がいないか、検査法の進化によりリスクを知ることができるようになりつつあります。
とはいえ、検査を常にするのは負担が大きいので、自分の腸内環境を知るめやすがあります。
便が硬すぎる、あるいは柔らかすぎる場合、腸内フローラのバランスが崩れている可能性があります。色は一般的に黄褐色から茶色が健康といえ、においが強い場合は肉類の食べすぎで腐敗が強いなどが考えられます。
便のチェックポイント
便の固さや色、においのチェックが有効です。
- 水様便:固形を含まない液状の便
- 泥状便:不定形で泥のような便
- やや柔らかい便:しわのある半分固形の便
- 普通便:滑らかで柔らかいソーセージ状の便
- やや硬い便:ひび割れのあるソーセージ状の便
- 硬い便:ソーセージ状の硬い便
- コロコロ便:ウサギの糞のようなコロコロとした便
脳腸相関とは
腸と脳は、迷走神経と呼ばれる体中に張り巡らされた神経で繋がっており、相互に情報交換をすることで密接に関係しています。相関し合う脳と腸の関係を脳腸相関といいます。
うつ病やパーキンソン病、アルツハイマーなどの神経系疾患に腸内フローラの乱れが関係しているとの報告も近年されており、腸が脳に与える影響の大きさを示唆しています。また、腸内フローラが食の好みを決めている、というユニークな仮説も提唱されています。
例えば、普段あまり野菜を食べない人が、海外旅行中に限って急に野菜が欲しくなるとします。これは、野菜の栄養素を好む腸内細菌がシグナルを出し、脳に伝わることで起こるのではないか、という説です。
脳腸相関はまだ解明されていない部分が多い分野です。今後研究が進むにつれさらに解明されていくでしょう。
この記事はこの方に監修いただきました。
松井 輝明(まつい てるあき) 帝京平成大学 健康メディカル学部 健康栄養学科教授 日本大学医学部卒業。医学博士。1999年日本大学板橋病院消化器外来医長就任。2000年日本大学医学部講師、2012年准教授。2013年帝京平成大学健康メディカル学部健康学科教授就任、現在に至る。
2001年厚生労働省薬事食品衛生審議会専門委員、2003年内閣府食品安全委員会専門委員、1998年日本消化器病学会評議員、日本実験潰瘍学会評議員、2000年日本高齢消化器病学会理事、2015年日本消化吸収学会理事。消化器一般、機能性食品の臨床応用を専門に研究。 |
https://institute.yakult.co.jp/dictionary/word_5.php
https://bio-three.jp/contents/cont06.html
https://www.biofermin.co.jp/nyusankin/chonaiflora/aboutchoflora/